この度、ひょんなことから「逆転裁判」シリーズに手を出す運びとなった。
今更このビッグタイトルになぜ手を出す気になったのか、簡潔に言えば、人のプレイ動画を見て、自分でもやりたくなったのである。
逆転裁判と言えばかなりの有名タイトルであり、その人気は高くシリーズを重ねなお根強いファンがついている推理アドベンチャーだ。昨年アニメ化もされており、新規ファンも増えたことが予想される。
自分でプレイするにあたり購入したのが、名作と名高い初期3部作を一つにまとめた「逆転裁判123 成歩堂セレクション」である。
まず、始める前の私の逆転裁判の知識はどのようなものだったのか。
・頭がトゲトゲの「なるほどう」というフザけた名前の主人公が『異議あり!』と声高らかに叫ぶ。タイトルからして裁判で勝つために色々やるゲームなのだろうか。
・「剣持」という人気キャラがいる(やるまで「御剣」のことをずっと「剣持」だと思っていた)。
・着物を着た女の子がオウムに話しかけているシーンを知っている。
この最後の項目が問題で、私は「ゲームの有名なドッキリシーン」として「DL6号事件」のことを知っていたのである。ただ、事件の概要などは全く知らず、このシーンだけが頭の片隅にあるだけだった。
しかし、いつかこんな日が来るかもしれないと、真相を調べるには至らずにいたのだ。こういうゲームのネタバレは致命的なものとなるので、今となってはその判断は正しかったと言える。
では、実際にプレイしてみてどう感じたのか。
ハッキリ言えることがある。
「こんなに面白いゲームを、なぜ今までやらなかったのか。」
これに尽きる。
ここからは、1作ごとに分けて感想を述べていきたい。本筋のネタバレなしです。
<逆転裁判 蘇る逆転>
元々発売された第1作「逆転裁判」に、追加シナリオの5話目を加えたもの。本来は、続編を作る予定がなく、この作品で完結するはずが、人気が出たことでシリーズ化されたという背景があるとのこと。
まず思ったのが、「なんだこの裁判。」である。
上げ足取りのような尋問、ろくに警察が調べもしない証拠品、ガバガバの証言、木槌をやたらめったらガンガン鳴らす裁判長、舞い散る紙吹雪……。ふむう。
そして2話以降からは、弁護士が探偵の真似事のようなことをし、特に拘束もされていない目撃者に聞き込みを行う。
しかし、進めていくうちに気付き始める。これは、そもそも「法廷シミュレーション」ではなく、公式曰く「法廷バトルアドベンチャー」なのである。
圧倒的に不利な状況からいかにしてムジュンを探し相手に叩きつけ(机もバンバン叩き)、勝利するか。要はハッタリ上等、言い負かし合戦なのである。
そこから真実を見つけ出し、弁護士と検事が互いに策を練りビシビシと主張(と指)を突き付け合う。それが法廷バトルなのである。まずはその感覚に慣れることが必要だった。
世界観に慣れてくると、かなり特徴的なテキスト、個性豊かすぎるキャラクターにも愛着が湧いてくるようになる。
特に、主人公の成歩堂龍一、彼は主人公にありがちな熱血溌剌タイプではないのが意外だった。彼の信念たる想いや目標があることは、ストーリーを進める上でわかりやすい。しかし、少し達観したようなドライさもあり、たまに辛辣で、ピンチになれば苦笑いをし、脂汗をかいて焦る姿に、非常に人間らしさを感じて好感が持てる。そして最後には不適に笑い、気持ちよく勝利する。正直かなりカッコいいキャラ性だと思う。
他にも、可愛い真宵ちゃん、頼れる千尋さん、存外憎めない存在となった御剣などのメインキャラ、サイバンカンやオバチャンなどのサブキャラクターもとにかく濃い。
かといって、描写や台詞がしつこすぎるわけでもない。それは、このゲームのディレクターを務めた巧舟氏による、小気味よいテキストのおかげである。
台詞だけでなく、探索パートのフレーバーテキストまでかなり凝っている。あらゆるものを「調べる」して小ネタを探して、全ての会話を拾いたくなる気持ちにさせるのが非常に上手いと感じた。
それだけでなく、推理ゲームの本質、醍醐味とも言えるシナリオがまた面白い。
最初こそ、なんだこれは?子ども向け?になったが、話のボリュームもトリックも本格的になる3話「逆転のトノサマン」からは次の展開が気になって仕方がなかった。
そして、来たる4話「逆転、そしてサヨナラ」では、次々と明かされる登場人物の関係性、後々まで禍根を残すこととなる『DL6号事件』の全貌。
今まで積み上げたものが複雑に絡み合い、謎が収束していく様は見事としか言いようがない。正直、エンディングの1枚絵を見た時は涙が出てしまった。
そして、個人的な注目ポイント、BGMや効果音の使い方がうまい。
私はゲームBGMが大好きなので、気に入ったゲームのサウンドトラックはかなり買っている方だ。逆転裁判は、曲そのものの良さもあるが、盛り上がる場面や印象的なシーンでしっかりと曲が活きていると思う。
法廷パートでの『異議あり!』や『追及』はもちろん、無音になるタイミングもうまい。また、このゲームの代名詞とも言える<異議あり!>や<待った!>などの音声が、特徴的なアクセントとなっている。
更に、強い口調や異議を叩きつける際に「バシッ!バシッ!」っと大袈裟すぎるほどの効果音が鳴るのが気持ちいい。机をバンバン叩き始めると、いいぞもっとやれという気分にすらなる。このゲームにおける裁判は、本当に「武器を持たぬ、言葉の戦い」なのだと痛感する。
後日談にあたる第5話「蘇る逆転」も、かなり長かったが、二転三転するストーリーと骨太なトリック、魅力的な演出(あのビデオ検証の雰囲気が大好き)によって、最後まで飽きることなくプレイできた。
こうして、私は階段を転げ落ちるように逆転裁判シリーズのファンになってしまったのだ。
<逆転裁判2>
さて、続編の『逆転裁判2』である。
まず、思ったこと。
「……難しくないか?」
勘違いかと思ったのだが、圧倒的に『1』より難易度が上昇していた。自分が馬鹿になってしまったのだろうか…と悲しくなったが、調べるとやはりシリーズの中でも意地悪な選択肢やトリックに無理があるものが多く、詰まる人も多かったようだ。安心した。
『2』では、逆裁の世界において欠かせない要素となっている「霊媒」に大きくスポットが当たっているのが面白かった。キミ子や春美ちゃんの登場により、謎が多かった綾里一族の隠された性質が見えてくる。
そこに、通常の殺人事件が加わり、なかなかにスリリングな展開だった。余談だが、私はのどか嬢のようなキャラクターが好きである。かわいい。
また、全体を通して、救いのない、暗い話が多かったように思う。
これは人を選ぶ要素かもしれないが、個人的にはこういった雰囲気は嫌いではない。ただ、スカッと勝てる後味の良さが薄れてしまうというのもわかる。特に第3話「逆転サーカス」の展開は、心にかなりしこりを残した。
そして、最終話「さらば、逆転」では、今までの前提が大きく覆り、かなり焦った。弁護士とは何か、弁護するとは何か。ナルホド君がその意味を問われる展開となり、非常に考えさせられて面白かった。
また、『1』から登場しているキャラクター達が更に良い味を出していて、あの日々が繋がっているんだなぁと思えた。あのキャラには笑ったが。カタカタカタカタ……
プレイするうちに、どんどん可愛くてたまらなくなってしまうのが、真宵ちゃんである。ナルホド君とのやり取りは、もはや夫婦漫才かのよう。ある意味でヒロイン体質なせいで、最後の事件ではほとんど一緒に居られなかったのが悲しい。
エンディング後の証拠品、あれは反則だ。涙がポロポロ出てきてしまった。真宵ちゃん大好き。
そしてどんどん高感度の上がっていく御剣。悔しいので、そのようなアレは困る。認めたくないが非常に良いキャラである。
新しく登場した、春美ちゃんやメイといったキャラ達も魅力的だ。法廷に鞭を持ってきている時点でなんだこの子と思ったがまさか本当に叩いているとは。あと春美ちゃんのぴょこぴょこ跳ねるモーションが可愛すぎる。癒しである。
演出面では、特に「再開、そして逆転」の導入(映像とモノローグを交互に切り替える演出)は、なんともドラマチックで大好きだ。ゲームの特性を存分に生かした素晴らしい演出だと思う。トリックも、見事に予想を裏切られてしまった。
システムで面白かったのが、証拠品以外に「人物ファイル」を「つきつける」ことが出来る。これが、人間関係の背景により深みを与える要素となっていて、かなり楽しかった。
そしてなんと言っても、『2』から登場した新要素、『サイコ・ロック』。これが良い塩梅で難しく、謎解き要素に更に一捻り加わってやりごたえがあった。背景が突然黒くなってジャラララ!と鎖が出てくるのも、中々にホラーチックで良いアクセントになっている。鍵の個数が多ければ多いほどワクワクしてしまう。
BGMは、ストーリーに合わせてか、暗めでシリアスな雰囲気のものが増えたように思う。探索パートもちょっと不安定な感じだが、2話からの雰囲気に合っている。『尋問』は個人的にかなり不安になるので1の方が好きだ。
ただ、『異議あり!』と『追及』の、冷静に追い詰めていく感じはかなり好み。『追及』のオーケストラヒットの使い方がうまい。
御剣(検事)専用BGMの『大いなる復活』も良い。キャラ固有BGMはどんどん欲しい。
難しく、暗いストーリーも多かったが、全体的な雰囲気としては好みだった。
そして、恐らく『3』への繋がりであるような片鱗を見せたところで物語は終わる。このままやめるわけもなく、すぐに『3』をプレイした。
<余談>
私が1番好きなアーティストはポルノグラフィティなのだが、彼らの『2012Spark』という曲は、逆転裁判の実写映画の主題歌になっている。
冒頭で述べた通り、当時は逆転裁判の知識がほとんど無かった。そのため、「へぇ~あの異議あり!ってやつの主題歌なんだ」くらいの認識だった。
ただ、ゲームをプレイした上で改めて歌詞を見てみる。
熱い鍔迫り合い 肚に決めてる決意
狙う振り向きざま 勝負はいつも水心
「水心」は、【魚心あれば水心】の引用で、意訳すると『勝負はいつも、相手の出方次第』のような意味合いだろう。
見事に、逆転裁判における法廷バトルそのものであると感じないだろうか。
まさか今になって、歌詞のモチーフとの親和性を実感することになるとは思わなかった。
<逆転裁判3>
いよいよ、3部作の最後である『逆転裁判3』。
これを終えると一旦シリーズの区切りがつくとのことで、始めるのが少しさみしかった。
ただ、やらずには済まされない。シリーズの総まとめとしてふさわしく、綺麗に伏線や設定を回収した素晴らしい作品であった。
基本的なシステムは『2』までと変わっておらず、進めるうえで困ることはなかった。逆に言うと、『2』までで既に完成形として成り立っているとうこと。かなりすごいことだと思った。
ストーリー構成は今までと変わり、過去の話を合間に挟んで物語が進行していく。なんと、第1話『思い出の逆転』は千尋さんの初めての法廷。そして被告人は……うそだわわあああん!!傑作である。
今回、操作キャラがナルホド君だけではないパートがあるため、『異議あり!』などの各楽曲も、千尋さんに似合うような凛としたイメージの編曲になっている。しかし、それはまた成長したナルホド君にも合っていてぴったりだった。全体的に落ち着いた雰囲気のBGMが多く、いよいよ終盤なのだなと思わせられる。
しかし、既に『3』における重要な伏線は始まっていたのである。この事件が、既に大きな物語の核心に触れていたのだ。
その後は『盗まれた逆転』『逆転のレシピ』と、現在に戻り再び事件を解決していく。これまでと同様、「死んじゃってくださーーーい!!」のユーサクくん(言っていないが)や、本土坊、うらみちゃんなどの一癖も二癖もあるキャラクターは健在で飽きさせない。
そして、なんと言ってもゴドー検事。『3』で突如現れた謎の仮面男、くらいにしか思っていなかった。しかし、ポッと出のキャラクターがおいしいところを持っていくだけで終わらないのがこの作品。事件の全貌が見えた時、舌を巻いてしまった。
第4話『始まりの逆転』では、なんと御剣検事のイキリ新人時代も見ることができる。御剣怜侍と申す。この事件は、回想という形で挟まれるが、タイトル通り全ての始まりと言っても過言ではない。
そして、最終話『華麗なる逆転』で、全てが繋がり、明かされる。
終わらない綾里家の禍根。千尋さんがもらたしたもの。まさか、『1』をやっている時には、ここまで壮大なスペクタクル劇になるとは予想もしていなかった。とにかく展開が面白い。所々大胆なトリックもあるが、ここまで逆転裁判をやっていれば特に気になることはない。あとは真相を追い求めて突き進むだけだ。
この最終話で強く感じたのが、やはりナルホド君のキャラクター性が非常に魅力的であるということだ。
第1話では、意外な過去の一面を見ることが出来るが、如何様にして現在の成歩堂龍一となるのか。その片鱗が、事件を通して少しでも見えるような気がするのだ。そして、真宵ちゃんへの想いが、あんなにも強いものだとは。普段のドライで飄々とした言動とは打って変わって、あの行動には思わず胸が熱くなった。
逆転裁判のいいところは、主人公の「恋愛」と「絆」がしっかり切り分けて描かれているところだと思う。私は、何でも恋愛に結びつけて考えるのが嫌いだ。その点、逆転裁判では、しっかりとしたバディ物の魅力が強くある。お互いを想う心、それは、パートナーとして信頼している証になる。運命的な出会いが、やがて必然になっていく様は見ていて心躍るし、掛け合いにもニヤニヤしてしまう。ずっと仲良しでいてほしい。
また、ナルホドくんが窮地に陥った際の御剣の行動がカッコ良すぎる。これまでのストーリーを経て、影の主人公と言っても良いほどの成長を見せたのが、御剣ではないかと思っている。ナルホドくんへの態度、法廷での姿勢が、今までの経験をしっかりと積み上げたものに」なっていて、非常に感慨深かった。
そしてなんと、彼を操作キャラとして動かせるとは。彼の視点で動いている時は、証拠品や人物の説明が御剣視点で書かれているのも細かくて最高である。特に、勾玉や成歩堂のファイルを見た時の説明には目を引かれる。彼はもうただのライバルじゃないのだな……と感慨深くなってしまった。さいころ錠!
また、あまり言及しなかったが、『3』では矢張の活躍も目を見張るものがある。この3人の関係性はとても良い。
また、綾里家の人々も総出で活躍する。この物語のキーであった「霊媒」。それを存分に活かしたトリックが素晴らしい。また、「霊媒」のルールに絶妙な縛りがあることで、何でもアリになっていないのが上手いなと感じた。
最後の法廷で、ナルホド君が目覚ましい成長を見せたシーンでは、涙が出てしまった。「こんな時、僕ならどうするか……?」の一言で、ああ、彼は変わったんだ!というのが伝わってきた。
この3部作は、ちゃんと彼の成長物語になっているのだ。
今までの事件、関わった人々、それら全てが丁寧に積み重ねられ、しっかり活きている。エンディングも、少しの寂しさと切なさがギュッと詰まっていて、やり終えた後の達成感がすごかった。
ラストの真宵ちゃんの姿にも胸を打たれる。彼女は、とても優しく、強い女の子なのだ。それは確かに、千尋さんとの血の繋がりを感じさせた。
ここまで書いて、やはり逆転裁判の魅力とは、「密度の濃いシナリオと、作りこまれた世界観、熱い法廷バトル、個性豊かなキャラクター、軽快で独特なテキスト、完成度の高いBGM」の相乗効果だと感じる。
彼らが生き生きとあの世界にいるからこそ、このゲームは面白いのであると思う。
プレイ時間は大体50時間ほどで1~3全てクリア。面白すぎてあっという間に終わってしまったが、ここまでやって良かったと思えたゲームは久しぶりである。ぜひ続編もプレイしたいが、一旦ナンバリングはお休みして、次は評判の良い検事シリーズに手を出そうと思っている。