【ライブレポ】ポルノグラフィティ16thライブサーキット『UNFADED』の追憶【前半】

ひとつの時代が終わろうとしている現在、いかがお過ごしだろうか。

今更ながら、2018年12月からスタートした「UNFADED」ツアーのライブレポートを書き残しておきたいと思う。

参加公演が複数にわたり、しかも日が空いている。なので、初日の感想をベースとして、その中でも印象的だった場面なども盛り込むスタイルを取ることにしたので、このようなタイトルにしてみた。

 

<参加公演>

2018.12.15 静岡エコパアリーナ(初日)

2018.12.22 北海きたえーる

2018.12.30 大阪城ホール

2018.12.31 大阪城ホール(カウントダウン)

2019.3.8  横浜アリーナ(『神vs神』発表)

2019.3.9  横浜アリーナWOWOW収録公演)

以上の公演の内容を織り交ぜて書いていきたいと思う。

☆ツアーコンセプト

今回のツアーは、「ポルノの全楽曲がサブスクリプションサービスに参入したことを受けて、アルバム、カップリングなどの全楽曲がセットリスト入り対象のツアーになる」ことが明言された。「全部の曲がベンチ入りしてて、イメチェンして出てくるかも」「あいつ誰?!って言われないようにしっかりサブスクで予習しておいてね」とまで言われる始末であった。

私はこの時点で死にかけだったのだが、タイトルが「UNFADED(色褪せない)」と発表されさらに頭を抱えた。全200数曲の中から、一体どの曲がセットリストに選ばれるのか、その中に自分が愛してやまない曲は何曲あるのか、天国のような地獄のようなヤバいツアーが始まってしまうのである。更に、晴一が自身のラジオにて「ハネウマをやるかなんよね~。あとジレンマ!」と発したことにより、ファンの間では様々な予測が立てられた。今までやった曲の回数や未だ演奏されていない曲のあぶり出しなど、ほぼ研究とも言えるような予行演習がなされていた。そのくらい、期待値がはるかに高まっていたツアーだといえよう。

前置きはこの程度にして、ツアーの内容に触れていきたいと思う。

 

☆客いじり・開演前BGM

私はしばらく大きい箱のライブに行っていなかったので(もしくはこの時間に席についていなかったことがあったため)、開演前にこのような儀式が行われることをすっかり失念していた。今回一人で参加する機会が多かったので、見ているだけでいいやと思えたのだが、今回のツアーから初めて参加してくれた方には概ね好評のようだった。

今回は、開演前のステージに映像はなく、大きく「UNFADED」と映し出されている。ループが長めの、ピコピコした感じのBGMが終始流れていて、会場のテンションを煽る。今回の作曲は誰だろうか?ライトはピンク系の暗い色で、怪しげな雰囲気を醸している。

時間がやってきて、客電が落ちる。あの瞬間の高揚感は、何にも代えがたい。

始まりの時を告げたのは、なんと……オペラだった。

 

☆OP演出

美しい女性ボーカル……ソプラノだろうか……歌詞は無い。その声に耳を傾けていると、

「ジャン!!!」とかなりの音量で(みんなびっくりするほど)ギターの和音が奏でられる。

オペラと共にやってくるロックの予感。今までにない独特の演出だ。

ジャン!!ジャジャン!!!

 

アーアーアーア~~~アアア~~……

 

ジャン!!!ジャジャジャン!!!!!

 

アーアーアーア~~ア~~ア~~~……

 

ジャンジャンジャンデケデケデケデンデンデン

アーアーアーアーアーア~~~~~~~~~!!!!!

 

 

ボン!!!!!!!!!!!!!

 

空砲と共に、火花が散りステージを覆っていたレースカーテンのような幕が落ちる。

逆光で現れたのは、見覚えのあるシルエット。

 

やっと会えた。

 

鳴り止まない歓声。その中で、静かに佇む二人。やがて、右側のシルエットが、少しだけ肩を動かした瞬間に、このライブは幕を開けた。

 

デーデレーデーデーデーレーデーデーデレーデー……

 

およそ250曲あまりの曲の中から選ばれた記念すべき1曲目がこれだ。

しかし、あまり聞き覚えがないイントロのようだが……

イントロと共に、低いデスボイスのようなナレーションが何か話しているが、興奮のせいかよく聞こえない。わけもわからず手拍子をしていると、真ん中のシルエットが息を吸い込み、歌い始めた。

 

「Search Out! 愚か者がはびこるこの街」

 

M1 オレ、天使

正直に、この曲だと即座にわかった人がいたら教えてほしい。「ウソだろ?!」というのが素直な感想である。ウソだろ?!というのは、始まるまで全く『オレ、天使』だということに気付けなかったのである。初日の高揚感で頭がおかしくなっていたせいかとも思ったが、理由がなんとなくわかった。音源で使用されている電子音の部分を、ギターで弾いていたことに気付いたのだ。これは、前回のBEツアーにおける『月飼い』と全く同じ方法で嵌められたことになる。やられた。

非常に男らしい良アレンジで、特に「Nusty!地球の上飛ぶのって嫌なんだ」の部分のキメが痺れた。昭仁の「叩き……つぶ~~~~す!!!」や「ないんだよねぇ!!世の中!!!」とほぼ攻撃的とも言える歌い方に、ああ、ライブに来たんだな~と早くも実感する。私が「ポルノのライブは、CD音源以上」と言い続けている由縁がここにある。

 

余談だが、私は、緊張するとライブ前なのにおなかが痛くなったような錯覚に毎回陥ってしまう。先に言っておくと、このツアーは「終始おなかが痛かった」ツアーである。1曲目が終わっても2曲目、3曲目と、何が来るか全く想像ができないからである。ほぼイントロクイズ状態だ。しかし、それを欺くかの様に「わからなかったでしょ?」と言いたげなアレンジだ。考えるだけ無意味、もうあちらのペースなのであった。

 

最後のアウトロ部分では、イントロとは違い本来の「あーあ、これだけ俺が親切に正しい道に……」の語りが流れてくる。この語りの最後は、「かくも……儚き、かな。人生。」という締めで終わるのだが……

 

昭「Today is......UNFADED」

 

『今日という日は、色褪せない。』

こう宣言したのだった。

 

 

M2 A New Day

待ち構える2曲目、緊張しつつ聴こえてきたのは「テレレレン……」というリバーブのかかったギター。その時点で瞬時に湧き上がる観客。終始、この「イントロドン状態」が続くため、この初日は正直かなり異様だった。このツアーに、とてつもない想いをかけて臨んだ人がいかに多かったかがわかる。

2曲目からして、まさかのベスト盤にしか収録されていないこの曲のチョイス。「みんなわかっとるよな?!行くぞ!!」と煽られ、「言うなーーー!!!」のコーラス。やはり、前回のBEツアーより、ステージと客との心の触れ合いが早く訪れたように感じた。この掛け声を「わかってるよね?」と煽るのは、初めて来た人にとって大丈夫なのだろうか?と若干不安になったが、手始めにファンの信頼性を評価してくれているのだろうなとも思った。

 

M3 幸せについて本気出して考えてみた

シャン!シャン!デデデデデレレレ……

このわずか3秒ほどの間ですぐに裏打ちで拳を突き上げられる自分と周りが怖いほどであった。しかし段々、この状況を心から楽しんでいる自分がいた。何が来るかわからない。でも、何が来ても楽しめる。この気持ちは、今までの自分とポルノの歴史の現れでもある。

今回、なぜこの曲をチョイスしたのかしばらく考えてみたことがあった。このシングルが発売されたのは、2002年。発売から長い時間を重ね、年齢を重ね、今あえてこの『色褪せない』というコンセプトを掲げたツアーでやる意味とはなんなのか。

私は、歌詞に出てくる”幸せの種”、これが意味するところが”ライブ”なのではないか、もしそうだったら良いな~くらいの考えに辿り着いた。

 

「幸せについて本気出して考えてみたら いつでも同じ所に行きつくのさ 君も幸せについて考えてみてよ 僕の姿は浮かんでる? いつまでも消えないように

 

この”君”が私たちで、”僕”が彼らだったなら。「ポルノの姿を、いつまでも消えないように浮かべてほしい」というメッセージだったなら。

ポルノのライブに来ることが、「幸せ」だと私たちはすぐに答えられるだろう。

もしその逆、彼らも「幸せ」に思えることが、ライブの空間であったなら。

そうだったら嬉しいな、くらいの認識ではあるし、私の勝手な妄想に過ぎない。しかし、UNFADEDツアーにおけるこの曲はやはり「いつまでも消えない」のものになったのも確かである。

 

……この辺で気づいたのだが、モニターに映し出された晴一が、なんとガムを噛んでいた。

今までそんな所見たことがなかったのに、急にテンプレロッカーのようなことをし出したのが謎だったが、そのうちやらなくなっていた。なんか……そういう時期だったんだろうか。

 

-MC-

申し訳ないことに、初日のMCをほとんど忘れてしまった。お決まりの挨拶に、初日が大事だからこのまま突っ走りたいと思います!!といった内容だったように思う。どこの公演も、最初のMCにしては短めな印象だった。メンバー紹介もここで。新たなサポートメンバーとして、キーボードの皆川亮さん(通称ミナチンさん)、ベースの須永和広さんを今回は迎えている。皆川さんは、2018年のアミューズフェスの時に参加されていたが、須永さんは完全な新顔である。

ここでは、よく覚えている大阪2日目、カウントダウン公演のものを記しておく。(他会場のものも、どこかにまとめて記事として残しておくつもり)

昭「大阪の皆さん元気ですか!!」

客 \イエ~~~~イ!!!/

昭「元気ですか!!!」

客 \イエ~~~~イ!!!!/

昭「元気ですか!!!!」

客 \イエ~~~~イ!!!!!!/

昭「わしらが~~~~~~~ポルノグラフィティじゃ!!!」

「昨日もね、大阪の皆さんに最高に盛り上げて頂いて。今日の皆さんもこんなに来て下さって、やっぱ大阪の皆さん最高です!!」

晴「大晦日ですよ。……控えめな日本人が、唯一盛り上がっていい日が3日あるんよ。それはいつかというと、盆と暮れと正月なんよ(指を折りながら)。暮れと正月がいっぺんに来たぞ~~!!」

客 \イエ~~~~イ!!!/

晴「今日盛り上がらないとね、君たちはずっと1年大人しく過ごすことになるよ。盛り上がらんでどうする!というね。浮かれ気分でいこう。おとそ気分でいこう。……おとそ気分はちょっと違う?」

昭「おとそ気分……ししまい?(突然)……違うか。ししおどし!ししおどしってなんだっけ。コーン!ってやつか!全然ちゃうわ!とにかく!!!今日は皆さん思いっきり盛り上がりましょう!!」

 

M4 東京ランドスケープ

次はなんだなんだと待ちわびているところに、正直なところ、初日は「なるほど……?」という気持ちが大きかった。というのも、「これ最近聴いたな?」と錯覚してしまったせいもあるが、なんと最後に聴いたのは「ロイヤル ストレート フラッシュ」、10年前だった。冷静になると、感覚がもうバグっているのである。また、このツアーにかける期待のようなものが、膨れに膨れて、「自分の」聴いたことのない曲がたくさん聴けたらなあと勝手な思いを寄せてしまっていたというのもある。

この曲が印象的なのは、ラストシーン、「そう東京(ここ)に来て ずいぶん時は経った 思ったよりやれてる?褒めてあげよう」の部分で、昭仁のボーカルと晴一のギターの音だけになり、更に2人だけにスポットライトが当たる。そして極めつけは、大阪2日目で昭仁がやった歌詞改変だ。

 

「そうここを出て ずいぶん時は経った」

 

こう歌ったのである。

昭仁がこういったことをするのは、非常に珍しい。……もしかしたら、奇跡の歌詞間違い、だったのかもしれない。

しかし、東京ランドスケープは、最初の「ここは東京」を、そのライブが開催される土地に変えて歌ってくれることは多い。もちろん当日は、「ここは大阪」になっていた。それにより、最後の「ここ」「大阪」になるよう繋がったのである。これは偶然にしても凄まじい意味を持つことにならないだろうか。

第2の故郷とも呼べる大阪を出発し、今や全国を飛び回る2人。これは、19年間走り続けてきた二人の、ささやかな意思表示なのではないだろうか。私はそう感じている。

 

 

ランドスケープが静かに終わった後、キーボードの皆川さんがドラマチックなピアノを奏でる。スクリーンには、リアルタイムの映像にモノクロのエフェクトをかけた映像が映し出されている。ワンフレーズたっぷり弾き終えたあと、ドラムの4カウントに合わせて始まったのはこの曲だ。

 

M5 ジョバイロ

実はポルノのラテンロック系の曲の中でも、あまり日の目を見ないのがジョバイロである。そのせいもあって、せっかくならこのツアーで掘り起こしてくれてもいいのにな~と思っていたので、非常に嬉しかった。昭仁がアコギ持ちで、晴一が初日だけエレキだったような気がする。

映像は、リアルタイムエフェクトと呼ばれるもので、モノクロになったリアルのカメラ映像が終始流れていてカッコ良かった。真ん中のスクリーンには、ギターの手元のアップと、歩き続ける男性の足元だけが映された映像も流れている。

私は、ライブでよくやっていたギターソロのタンゴアレンジが好きなのだが、今回はほぼCDに忠実な演奏でかなりレアなものが聴けたのではないかと思う。

 

-MC-

ここで、今回のツアーコンセプトの説明。(※初日のものです)

昭「今回のツアーは”UNFADED”ということで…言いにくいんじゃこれが!(笑)どういった意味が込められているんですか?晴一さん!」

晴「”UNFADED”。”FADE"、っていうのは、フェードインとかのフェード。まぁ、色褪せるとかそういう意味なんじゃけど。今回、サブス…サブスクリプション…これもまた言いにくいんじゃが…(笑)わしらの曲が全部入ることになって。昔は、音楽を聴くとなると、カセットだったりCDだったり、わしが初めて買ったのはレコードじゃった。キョンキョン小泉今日子)の『木枯らしに抱かれて』が入ってるやつ」

昭「いいねー!!キョンキョン!!わしはその前の『夜明けのMEW』のカセットじゃったわ。ベッドの(天井の)ところにポスター貼ったりしてね、『キョンキョーン!』って…小3くらいの時に」

晴「まぁわしは中森明菜ちゃん派じゃったけぇ。…いいんだよそういう話は!!(笑)……まぁ、音楽を買う時ってやっぱりCDだと、シングルがでかい顔をしとるわけ。アゲハ蝶とか、ミュージック・アワーとか、シングルがやっぱりこう偉いみたいなのがあって。でもサブスクリプションは、アルバムもカップリングもみーんな同じ場所にある。

そういうサービスがあって、セットリストに全部入れて自由にやってみようと思って……20年間やってきた中で色んな曲を出してきて、今と昔を比べるような、『色褪せてる?』みたいな問いかけるタイトルにしたかった。『色褪せてる?』って聞いて、『色褪せてないよ!』って返してくれるような。でも、そしたら、タイトルに”ハテナ”がついちゃう。『FADED?』だとカッコつかんけぇね、だから、思い切って『UNFADED』と言い切る形にしました。」

昭「そんな理由もあってね、この初日を、皆さんの色で、今日という色で染めてください!」

晴「お、いいねそのMC」

昭「そう?(笑)これは絶対言おうと思っとった……っていいんだよそういうのは!(笑)え~~こっからは、今まであまりライブでやってこなかった曲、まだライブで演奏したことのない曲なんかも(ひゃ~~~!と湧き上がる客席)やっていきたいと思いますので、ついてきてください!」

そんなMCをするからには、何が来るのかと思っていたが……

 

カカン!カカン!テテテテトトン……

 

 

M6 ヴィンテージ

今でもハッキリ覚えている、この曲のイントロが鳴った瞬間の歓声と、口を塞がれて指を何本か折られたみたいな呻き声を挙げてしまった自分を。

この曲によって、客のこのツアーに対する期待値がグングン上がったように思える。ヴィンテージが入っているアルバム『WORLDILLIA』は、このアルバムを主軸としたツアーが行われていなかったため、収録曲がライブで演奏された回数が極端に少ない。ヴィンテージは、『BEST RED'S』にも入っていて、このサイケなイントロと哀愁のあるメロディ、捻くれているようでストレートな昭仁の歌詞が独特の雰囲気を持っていて、非常に良い。

 

「あの赤いワインのような濃密な時間を重ねて 僕らの愛がヴィンテージになる」

「色褪せたこのギターを持ってあなたに愛の歌捧げよう 僕らの愛よヴィンテージになれ」

 

この歌詞は、正に”UNFADED”ツアーを体現しているものではないだろうか。”物質”は、時がたてば劣化してしまう。しかし、時間を重ねることで「ワイン」や「ギター」のように、質や色、価値が変化して、最上級になっていく物もあるだろう。色褪せたギター、それは愛を歌い続けることになんの影響もなくて、この20年間、ポルノとファンの間に築かれた「愛」は最早ヴィンテージ物である。そんなメッセージが込められているように感じられる。

「あなたにとって僕が大切なままであり続けていく

今までもこれからも、それは私にとって変わることはないだろう。

 

M6´ Swing

このツアーでは、日替わり曲が存在した(数字に「´」で書くこととする)。『ヴィンテージ』と代わって演奏されたのが、この『Swing』である。これもまた、『ヴォイス』のカップリング曲という相当ニッチな位置づけで、客のざわめきが聴こえた。私が今回初めて聴いたのが、大阪2日目だった。私にとって『Swing』は、ちょっとした特別な思い入れがある。それは、初めてポルノグラフィティのライブを観に行った「RE・BODY」ツアーにおいて演奏された曲であるということだ。私は目の前に、あの日のZepp Sapporoが広がっているような気持ちになった。

「慌ただしく過ぎ去ってゆく日常の中で 薄れてゆく だけど消えない記憶なのさ」

このフレーズを想うたび、今までのライブの記憶もそういうものだなぁと実感する。鮮明に思い出せること、思い出せなくなったこともあるけれど、絶対に消えることはない、UNFADEDツアーもきっとそうなるだろうし、皆にとってそうでしょ?と問いかけられているようにも感じた。

 

M7 前夜

期待値が上がっているところに、『カメレオン・レンズ』のカップリングでもあるこの新曲。しまなみロマンスポルノでやるのかな?と思っていたがやらなかったため、聴けて嬉しかった。注目すべきは、バックスクリーンにポルノの2人の姿だけがセピア色で映し出されていたということだ。この曲は、”旅立ち”の前夜の心情が描かれたものであるが、一人称視点のようでいて実は個人的に引っかかっている歌詞がある。それは、

「励ます声が聞こえてきた 栄光の前夜」

なぜこの主人公は、「栄光」が訪れることを知っているかのような口ぶりなのだろうか?もしかすると、この「前夜」とは<1999年9月7日>にも当てはまるのではないだろうか?インタビューでは「春なのでこういう歌詞にした」と明言されているが、私は勝手にそのようなストーリーをつけてみたりしている。

そして圧巻の歌声であるが、CDでもすさまじかった「冷たいベッドへ重い身体 lay down」の部分、更にライブでは「神様願い叶えてくれ a piece of me」、ここが本当に、喉がぶっ壊れてしまうのではないかと思えるほどの咆哮になっていて度肝を抜いた。岡野昭仁という人は、どこまで進化していくのだろう。そして、そのフレーズをたっぷり伸ばした後にブルースハープに移るというアレンジもまた良い。間髪入れずに、晴一による”泣き”のギターソロ。カップリングとは思えない魅せ方だった。

 

M8 ビタースイート

静寂の後、このなんとも言い難い”ジョワジョワ…”みたいなイントロが流れた瞬間、また心がざわついた。うおお!と短く叫ぶ男性の声も聞こえた。確かに男性人気が高い曲である印象もある。

第一印象は、「渋いな!」だった。このハードで暗いナンバーを序盤でぶつけてきたのもそうだし、ものすごく盛り上がる曲調でもないし。しかもキー下げ。それでもCメロのハイトーンはさすがの貫録だった。この曲は、「蒼、紫、白、黒」と実はかなりたくさんの”色”が出てくる曲でもあるが、それが選曲にも関係しているのだろうか?

ビタースイートでは、たくさんの『可動式スポットライト』のような(正式名称が分かる方がいたら教えてほしいです)物が動き回り、ステージや客席を縦横無尽に、時に隊列のように真っ直ぐに照らしているのが、カッコ良くもあり不気味でもあった。

 

M9 ライオン

タタタタン!タン!というタムの入りでもう頭が理解する。ここに来て更に初期の名作とは。しかしビタースイートでキー下げしたのにこれはいいのか?!と思うほどのハイトーンの連続にビビる。FCUW5で聴いたのが最後だが、この時より更にパワーと伸びが増していた。昭仁がステージの上を歩き回り、気だるげな表情をしながらジャケットの裾を弄ぶような仕草をしていたのが、最高にクールだった。

 

そして、別の日では、この曲も日替わりであることを知る。初日のあとが札幌会場で、ビタースイートのあとに持ち変えるはずのギターを、晴一が持ち替えないことに気付いてしまったのだ(しかもハードロック用?のフライングV)。あれ?あれ?と思っているうちに、耳をつんざくあのイントロが始まった。

 

M9´ DON'T CALL ME CRAZY

叫んだかどうか覚えていないが、頭が真っ白になって震えたことは覚えている。ポルノの魅力には、ロックの中に”ポップさ”も兼ね備えていることも含まれるが、それをこれでもか!とかなぐり捨て、ハードでコアなサウンドでタコ殴りにしてくる顔を持っていることを私たちは知っている。そして私はそれが大好きだ。もう無理!!ってくらいボコボコにされてしまう。晴一の暴れるような速弾きを終始見られるのもこの曲のいいところだ。そして昭仁のロングハイトーン、「不穏に響くは…」からの不気味な雰囲気に身を委ね、曲と一体化する二人の姿に心臓を撃ち抜かれてしまいそうだった。

そして、「ピストルズを」で頭に指を突き立てる昭仁を見て、無事撃ち抜かれた。

 

曲が終わると空気が一転し、今度はOPとはまた違う男性テノール歌手のような声が響く。こちらもまた、オペラのような雰囲気を持ち、伴奏がないアカペラだ。歌詞はあるようだが、恐らくイタリア語?のような言葉で、どこかの作品からの出典があるかもしれないが私にはわからずにいる。

段々とエコーがかかり、そして同じフレーズを壊れたレコードのように繰り返し、歪んでいく。フェードアウトして始まったのは……

 

M10 Zombies are standing out

「ゾァーン………」という独特のイントロを聴いた瞬間、会場が「ウワアアアア!!!!」という割れるような歓声に包まれ、いかにこの曲が待ち望まれていたかがわかった。本当に、ポルノは一気に心を持っていくような演出がうまい。もう灰になってもいいと思った。

「光がその躰を焼き 灰になって いつか神の祝福を受けられるように」の部分では、昭仁の周りが緑色のライトで照らされたスモークで覆われ、昭仁だけが赤く血のようなライトで染め上げられ、後ろからはまるで後光のように白い光の筋が回転しながら伸びている。神々しくも禍々しく、そして幻想的な光景に息をのんだ。一度、スタンドのステージ正面で観ていたのだが、あの瞬間だけは、その席で良かったと思った。

まるで神のような昭仁のあとに、もう一人の神である晴一がギターをかき鳴らす。水をくれと叫びたいのはこっちの方である。

 

激しい曲が終わり、どこからかなぜか小鳥の鳴き声が聞こえてくる。

おや、この流れはもしや……と思っていると、やはり、ステージには、アコースティックギターを持った昭仁がたった一人、椅子に座り客席を眺めていた。

 

後半へ続く。