【観劇】『MANKAI STAGE「A3!」〜WINTER 2020.08〜』レポ・感想【二幕~総評】

エーステ冬組単独公演、二幕のレポ・感想です

あくまでも、私個人が感じたことを正直に色々と書いているものです。

※原作(アプリ)のストーリーの内容、舞台のネタバレを多分に含みます。ご注意ください。

一幕の感想はこちら。

ikaika1015.hatenablog.com

 

▼プロローグ

冒頭、東のモノローグからスタート。東の家族は、慎ましい家庭ながらとても仲が良かったが、東が子どもの頃、旅行先の交通事故で父、母、兄を亡くしてしまう。

「留守番は寂しかったけど、たかが一泊だ。すぐに帰ってくると思ってた。でも、送り出した3人は……二度と帰ってこなかった。」

東も一緒に行く予定だったが、熱を出し家に残っていたため、助かった。しかし、大切な人を送り出して自分独り残ってしまったことが、未だにトラウマになっている。

二幕は、その部分が中心となって物語が進んでいく。

 

▼寮内〜冬組MT

寮の談話室で、紬と丞が他の劇団のフライヤーを見ている。お互いに、次に観に行く公演の情報をリサーチしているようだ。オススメの劇団があったり、あまり好きではない劇団に対する紬の「そこは……うん、て感じかな。」というリアクションがリアルで、わかる…と思った。

原作では、東の知り合いから塗り絵が届き、冬組みんなで塗り絵大会の流れになるのだがそれはカット。

どうやら冬組でのミーティングがあるらしく、次に誉がやってきて、マシュマロに釣られて密もやってくる。本公演でのマシュマロノルマは、このシーンが初めてということに気づく。秋冬公演では大袋入りのマシュマロを直に取り出して渡していたが、今回からは直接手が触れないようにさらに一つ一つが個包装になったマシュマロに変化していた。随所に情勢への配慮が見られる。

冬組第3回公演『真夜中の住人』に向けてのミーティングのようで、既に配役は決まっている。今回の主演、孤独に生きる吸血鬼・玲央役は東で、準主演のお人好しなサラリーマン・浩太役は丞。

そこへ、シトロンがやってきてみんなに台本を配り始める。綴が部屋で力尽きたので持ってきてくれたらしい。

紬「今回はどんなお話なんだろうね?」

シ「オー!ワタシ、もう読んだヨ。今回の舞台は、現代のような、そうでないような、日本のような、そうでないような場所で起こる、悲しいような、悲しくないような物語ネ。」

丞「…自分で読んだ方が早そうだな。」

いつも通りの笑えるシトロン、と言いたいところだが、実はこの感想はかなり的を得ていることが、公演の内容を知っているとわかる。

 

黙々と台本を読む冬組。そんな中、シトロンと一成がイタズラを仕掛けていく。この日替わりシーンで大活躍したのが、’’ミスターツッコミくん’’こと、綴の等身大パネル。とうとう本人がいないのにいじられるようになってしまった。

シ「ツヅル!ツヅル!ワキワキするネ〜!」

綴パネル「いやワクワクな!」

と、一成がスマホから録音した綴のボイスを流すというめちゃくちゃな展開に、初見から笑いが止まらなかった。このツッコミくんパネルを使った日替わりが本当に面白くて、毎回ゲラゲラ笑った。台詞のバリエーションも多く、特に「ならヴェローナから出て行くことだな」という、春組公演の『ロミオとジュリアス』で綴が演じたマキューシオの台詞が飛び出した時が一番好きだった(このせいで、後のライブでロミジュリを見た時に思い出して笑う羽目になった)。

更に、回を重ねるごとに’’ミニ臣パネル’’が登場したりと、二人の自由さに冬組も我慢大会のようになっていたので、特に笑い上戸っぽい荒牧くんは大変そうだった。

 

今回の公演は、吸血鬼と人間の、少しダークで切ない物語。早速稽古がしたくなったので、ストリートアクトに行こう!と言い、出ていく冬組。そんな中、東は物憂げな表情で台本を見つめる。

『おやすみ……良い夢を』か…。ボクには酷な結末だな。」

ここで、東の幼少期の回想が入る。冬組の他の3人が家族に扮して出ていくのを、東が見送り、東の親戚役をサポートメンバーが演じている。

綴(親戚A)『まさか、家族で事故だなんてな…。上のお兄さんが大学進学したばかりだろう…』

一(親戚B)『二人とも、これから少しゆっくりできるって話してたばかりなのにねぇ…』

シ(親戚C)『下の子はたまたま留守番してたから助かったそうだが…』

一(親戚A)『かわいそうよね、たった一人で残されるなんて…』

首をかしげながら親戚の話に聴き耳を立てている幼い東の表情が切ない。

幼東「そうか、ボクはもう独りなんだ…」

親戚が、自分の引き取り手のことで揉めているのを聞いてしまい、これからたった一人で残され、生きていかなければならないことに気づいた東。幼い子どもでも、大人達の様子から、自分がそれほど歓迎されていないということを察したのだろう。

ふと我に返ると、丞からLIME(エーステ界のLINE)で連絡が来ていることに気づく。

丞【ドライブ行きませんか?】

東「丞からの連絡なんて珍しいな。」

行先は任せて、すぐに出発することに。

 

▼海へのドライブ

ドライブの行き先は、海。「旗揚げ公演の頃は、こうして二人でドライブに来るような関係になるとは思ってなかったな。」と東が言う通り、冬組の距離感が少しずつ変わってきてあることがわかる。しかし、まだ仲良しの友達かと言われると、そういうわけでもない、微妙な距離感。ここの海のシーンでの台詞の間の空け方がその空気感を醸し出して好きなシーンだった。

 

東は、どうしていきなりドライブに誘ったのかと問う。丞は今回、準主演としてできるだけ東をサポートするために、二人で役について深める時間が必要だと考えたようだ。そのため、台本を取り出し、読み合わせをしたいと申し出る。

東「ボクはドライブのつもりで来たんだけどな。…まあいいけど。」

丞「台本、持ってきてくれてたんですか。」

トートバッグから台本を取り出す東。一緒に過ごすうちに、東にも丞の考えが少しずつわかるようになってきたようだ。このバッグや、手帳型のスマホケースなどというチョイスが東らしくて、エーステはキャラの一人一人に合わせた小物を用意するのがうまいと思う。

互いの台詞を確認しながら、台本を読み進める二人。まだ台本をもらったばかりで、演技の方針が決められず、これからゆっくり詰めていきたいと言う東。丞が何か提案しても、身を任せてばかり。

東「……ごめんね?」

丞「いえ、こっちこそすみません。台本を貰うと、つい一人で色々考えてしまって。」

この「ごめんね?」の言い方でも思ったのだが、上田くんの演じる東は、原作より近寄り難い雰囲気が少なく、秋冬公演よりも更に優しさとあたたかみを感じる東だなぁと思った。自分が原作の東への理解度が低いというのもあるが、ステの方が人間らしさを感じられて、東という人物像がより好きになった。

 

東は、何かを確かめるかのように、丞がどうしてこの劇団にいるのか問う。「今は、ここでやる芝居が気に入ってるし、拾ってくれた恩もある。だからこそ、今度の舞台もいいものにしたい。」と答える丞に、それ以上の追及はしない東。

今度は冬組みんなでドライブに行こうと提案する東に、苦笑しながら「うるさそうですね。」と言いつつ、悪くないかもな、というような表情を見せる丞。

先程、ステ東のことを人間らしいと書いたが、更に良いキャラクターになったなぁと思うのが、北園くん演じる丞だ。原作の丞は、元々表情が少なく、割とぶっきらぼうであまり喜怒哀楽が激しいタイプではないが、ステの丞は、言葉の端々や仕草から感情が読み取りやすい人になっている。

かといって過剰に優しいわけでも爽やかすぎるわけでもない、絶妙なバランスを保ったまま新しい丞を作り上げていると思う。話しやすさで言えば、ステ丞の方が会話が続きそうだな〜と思えるくらい私はステの丞の人間らしさがけっこう好き。

 

▼稽古場

冬組の稽古だが、なぜかそこに臣がいる。

今日はパンフレット用の写真撮影をする予定だったとのことだったが、紬がすっかりみんなに伝えるのを忘れていたようだ。自分は大丈夫だが、気がかりになる人がいるようで……

誉「おや、臣くん、どうしたのかね。」

臣「今日は、パンフレット用の撮影を撮らせてもらおうと思って。」

誉「パンフ用…?!困るなぁ〜〜そういうことは事前に伝えてもらわねば!」

気がかりなのは誉のことだった。ジャージだと自分の魅力が伝わらないので着替える!!と言って聞かない誉に、臣が優しく「誉さんの魅力は、その内面の美しさだと思うんです。何を着ていても、それは変わらないと思いますよ。」と諭すと、すっかりご機嫌になりポーズを決めまくる誉。臣くんは本当に曲者の扱い方が上手い。

 

稽古が始まり、それぞれの役について深めていく。監督は、丞にもっと頼りない感じが出るようにとアドバイス。どうやら、東の演技に思うところがあるようだ。

東「役とボク自身に距離がある?」

丞「玲央の、’’独りで生きていく’’っていう達観した感じを出していくといいんじゃないか。」

東「独りで生きていく……」

どこか思うところがあるような東。人との繋がりを求める東とは真逆の玲央を演じることが、今回のネックとなってくる。しかし、東はそれを話さずに「大丈夫、ボクが変わらないと、どうしようもないしね。」と笑顔を見せる。

稽古が終わっても、あれこれと演技プランを話し続ける紬と丞を見ながら、何か思うところがある様子で誉に話しかける東。

東「ねえ、誉は、お芝居好き?」

誉とって重要なのは、好きか嫌いかではなく、それに意義があるか否か、それが大切なのだという。その判断基準でいくと、演劇は打ち込む意義があると答える誉に、また思うところがある様子の東。

この誉の返答は、まさに「合理的思考か、芸術的思考でしか考えられない」という誉らしい答えであるが、じゃあお芝居に意義を感じなくなってしまった時には一体どうするんだろう………?!とふと考えてしまうことがあるが、それは置いといて…。

東「独りで生きていく、か…。久しぶりに戻ってみようかな、独りに…。」

そうつぶやいて、何かを決行する意志を固める東。それぞれの芝居への向き合い方を見て、自分なりにやれることをやろうとしているようだ。

稽古が終わり、臣と紬が稽古場に残る。すると臣が、稽古の時の東の表情が気になったといい、心配している様子。舞台のオリジナル台詞だが、カメラのファインダー越しだと表情がよく見えるという理由は臣くんらしくて良かった。それを聞いて紬は、注意して見てみるよとリーダーらしく気配りする。

 

▼とあるマンション〜駅前

東「ただいま。…って、すっかり癖になっちゃったな。」

MANKAI寮ではない、どこかの部屋。ここは、東が元々一人で住んでいたマンションだ。寮とは違う、しんと静まり返った空間に、東は寂しさを覚える。

 

♪「ただいま」の声 

東のソロ。いつもうるさいMANKAI寮は、孤独を忘れさせてくれるくらい賑やかで大切な場所だが、今はあえて離れることで、孤独に生きることに向き合おうという曲。

(本来単独公演の主役のソロ曲はこういうものだよな、と一幕を振り返っても思うが、似たような構成になるのを避けたのかもな…と考えてお茶を濁すことにする)

東は、秋冬公演からずっと’’寂しがり’’であることを強調されつつも、肝心の東自身はそれを表に出さず、どこか掴みどころのない風に舞う葉のような人物として描かれている。

曲中、場面が切り替わり、稽古場にいる4人の元へ、支配人がやってくる。

支「雪白さんいませんか?瑠璃川くんが、衣装について打ち合わせをしたいそうなんですが…」

東が不在だということを伝えると、また明日にしてもらうと言い支配人は去っていく。こうやって別の団員の存在も匂わせて、同じ日々を過ごしているんだなと思わせてくれるのはエーステの好きなところ。

 

《虚しく響く「ただいま」の声  忘れていた一人ぼっちの夜》

《変わっていかなきゃ  その為に今  もう一度この孤独と向き合おう》

本当は誰より孤独が怖いのに、それもまた一人で抱えてしまう。東は設定上は年齢不詳だが、平均年齢の高い冬組の中でも、恐らく少し歳の離れた年長ということもあり、弱みを見せずにここまでやってきたという側面がある。

一幕の誉と共通しているのは、’’役の心情を掴めない’’というところだ。しかし、’’心情を考えても理解できない’’のではなく、’’理解はできても、受け入れることができない’’ことで苦戦しているのが誉との違いだろう。

紬「東さん、どこへ行ったんだろう…」

稽古が始まってから、毎晩どこかへ出掛けている様子の東。しかし、それに気づきながらも、詳しいことは聞けず、深入りできないでいる。

丞「…俺がなんとかする。」

口下手で積極的に人に働きかけるタイプではない丞だが、舞台を成功させるため、「準主演だしな。ちゃんと話してみる。」と、自分から進んで話し合いをしようと試みる。

 

一方、また一人でマンションにいる東。部屋で眠ってしまい、悪夢を見てしまう。

「待って、行かないで……嫌だ―――ひとりにしないで!!」

いつも両親と兄を送り出すシーンで飛び起きる東。朝起きると、大切な人がいなくなっていたというトラウマが、深く根付いていることがわかる。

スマホを見ると、丞から昨日の夜に連絡が来ていたことに気づく。

丞【ドライブ行きませんか】

東【ごめん、今メッセージ見たよ】

丞【今どこですか?】

東【秘密。今から帰るよ】

 

場面が変わり、東が帰ってくると、駅前で誰かを探している様子の丞がいた。迎えに来てくれたのかと言われ、ジャージでもないのに「ちょうどランニングに出るところだった」とバレバレの嘘でごまかそうとしたが、東には通用しなかった。更に、電車で帰ってくるとは限らないのに駅で待っていたことを指摘される。思い込んだらそれしか考えられない丞の不器用さが描かれてる。

東「…なんでボクを待ってたの?」

丞「最近、夜出かけることが多かったみたいなんで、どうしたのかと思って。」

東「吸血鬼の役だし、夜に行動した方がそれらしいでしょ?心配しなくても、公演はうまくやるよ。」

丞「……はい。

東にはぐらかされ、肝心なことが聞けずに「……くそっ」と自分に憤る丞。

 

▼アルバム完成〜稽古場

稽古が終わり、疲れている様子の紬。談話室を通り掛かると、他の組のメンバーが何やら盛り上がっている。

紬「アルバム、完成したんだね!」

一「ちょーっと大変だったけど、おみみと協力して、一生懸命作ったんだよねん☆」 

一幕から作成していたアルバムには、旗揚げ公演の時から各組が楽しそうに映っている写真が飾られている。紬はその写真を見比べて、やはり周りから見た冬組の雰囲気や距離感について思うところがあるようだ。

紬「…俺たちの距離感って、どう思う?」

一「別に、フツーじゃね?冬組って、みんな大人じゃん!俺たちとは違うけど、それが、冬組らしい距離感なんじゃないの?」

春組、夏組、秋組。それぞれ色々な出来事があり、時には互いにぶつかり合うことで各公演を乗り越えてきた。しかし、冬組は、他の組と比べても、顔をつきあわせて本音を言い合うような場面が少なく、特に仲が悪いというわけでもないが、特段仲良くなったというイメージも無い。

唯一、メンバーの全員が成人していて、大人である冬組。人と向き合うには、力技ではどうにもならない時があることを知っているが、今回はそれが裏目に出てしまっているのだ。

 

紬「俺たちは、どうしたら前に進めるんだろう…。」

シ「…足を、前に出せば良いヨ。」

綴「シトロンさん、そんな単純な話じゃないから…」

紬「ううん、きっとそんな単純なことなんだよね。でも俺たちは、その単純なことが怖いんだと思う。大人だから、余計に…」

一「なら、ほんの少~し、前に進めばいいんじゃね?大きな一歩が怖いなら、ほんの少しの一歩でも、前に進めるっしょ?」

紬「…ありがとう。みんなが繋いでくれたもの、俺達も必ず繋ぐよ!次の季節に…」

 そう言って、アルバムをシトロンに渡す紬。このシーンは、今後のエーステ自体のメタファーでもあるようで、舞台でのMANKAIカンパニーの未来も感じさせてくれる素敵なシーンだと思った。

シトロンや一成の優しい助言。一歩ずつでいい、その言葉が紬の背中を押す。困難を乗り越えようとする紬、そして冬組の姿に触発され、俺たちも負けてられないな!と残ったメンバーもストリートACTへ向かう。

 

後日、稽古終わりにまた出かけていく東。東の様子を心配する。

本来は丞と監督二人の会話だが、その役目を今回は紬が多く担っているため、原作よりリーダーとしての立ち回りを物凄くうまくやっているような感じがする。丞は、旗揚げ公演の際に揉めてしまったことを思い出し、上手く声をかけられずにいる。

丞「また言葉を間違えたらと思うと、何も言えなくなる。言葉にしないと伝わらないって、もう十分わかったはずなのにな。……俺は何も成長していない。」

紬「そんなことない、丞は変わったよ!逃げずにちゃんと向き合おうとしてる。冬組みんなで、もう少しだけ前に進んでみようよ。」

ここで監督が一言、「気の利いた言葉じゃなくてもいい(原作より引用)」と助言する。

丞「気の利いた言葉じゃなくていい…?」

紬「なんでもない言葉が欲しい時もあるよ、昔の俺がそうだったから…」

それをどうやったら伝えられるのかと悩む一同の元へ、支配人が荷物を抱えてやってくる。どうやら、東宛に荷物が届いていたようだ。

支「なんでも、雪白さんの昔からの知り合いで、同じマンションに住んでる方みたいなんですが〜」

昔からの知り合い、同じマンション、という言葉に反応し、その住所へ急いで行ってみることに。

 

丞【今どこですか?】

東【秘密】

丞【ドア、開けてください】

 

東「え?」

東がドアを開けると、そこには冬組が勢揃いしていた。原作だと先に監督と丞が来て、そのあと残りのメンバーを呼ぶ流れになるのだが、ドアから一気に4人がなだれ込む様子がなんだかほほえましかった。この時そっとドアを閉める誉のしぐさが好き。

東「みんな…」

丞「突然すみません」

以前、「吸血鬼の役作りのため」ということを聞いていた丞は、そういうことなら協力すると必死に食い下がる。

丞「役作りなら俺も手伝います。台本なら持ってきました。」

既にボロボロで使い古した台本(原作では、汚くなったので2冊目を監督に用意してもらっている)。東はそれを少し見せてくれと頼む。東(玲央)との掛け合いについてのメモが多いことに気づき、しばらく台本を眺めるが、頑なに姿勢を崩さない。しかし、公演のことではなく、東自身が何か悩んでいるのではないかとストレートに聞いてきた丞に、たじろぐ東。

紬「聞かなくてもいいことかもしれない、でも知りたいんです!…ダメですか?」

 

今までに無いくらい、自分に近づこうとするみんなを見て、東は過去を語ることを決める。

 

▼東の過去

冬組以外のストリートアクトの場面になり、「箱の中からくじを引き、出た配役で芝居をする」ということに。そのまま、父:臣、母:一成、兄:シトロン、幼少の東:綴という配役で、ストリートACTから東の回想に移行する演出は舞台ならではで、とてもうまいと思った。

冒頭と同じ語りに合わせて、シトロン達のストリートACTにより、仲睦まじい家族の平凡な日常が描かれる。

そして、東以外の3人が旅行に出かけ、その旅行先で事故に遭い、自分一人を残して家族が亡くなってしまったことをカミングアウトする。

ここで、東が初めて、遺体が見つからないままの兄が帰ってくるように願掛けで髪を伸ばしていたことを告白する。

「あの時、『いってらっしゃい』じゃなくて、『行かないで』って言っていたらって、何度も後悔した。そんなこといくら考えたって、意味が無いのにね…。」

真剣な顔で話を聞く冬組。

そして、夜に事故の時の悪夢を見るため、一人きりで朝を迎えることが怖くなった東は、添い寝屋を始める。劇団に入ったのも、同じような理由だったという。孤独を埋めるために演劇をやっている自分が、真摯に芝居へ打ち込んでいる仲間に対して申し訳なくなり、東なりに一人で役に向き合おうとしていたのだ。

「ボクも、冬組のみんなも、それなりに歳を重ねて、他人との心地いい距離っていうのがわかってる。だから、お互い必要以上に踏み込まずにいた。でもそれは、配慮っていう建前で距離を作ることで、自分自身を守ってたんだよね。そんな関係は心地よくもあったけど……少し寂しかったのかもしれない。」

この東の言葉は、冬組の全員が抱えている問題でもあった。実際、自分もいい大人なので、冬組のもつ面倒くささや、大人だからこその距離の取り方は、とても身に覚えがある話でもある。しかし、そこに切り込んでいかない限り、より親密な関係にはなれないし、一緒に芝居をしていく以上、つかず離れずの関係では、越えられない壁というものがあるのだろう。

 

紬「俺たちみんな、踏み出せないままでいたんです。でも、だからこそ今日、ここに来ました。ほんの少し、前に進むために…」

東「ほんの少しでも、か……。じゃあ、今夜一晩だけ、話してないことを話してみない?もちろん、無理にとは言わないけど…。」

みんなが賛成し、こうして、冬組としては初めて、お互いにきちんと腹を割って話すこととなった。

このシーンは、本来話しにくいこともあると思うからお酒の力を借りよう!という流れになるのだが、それはカット。やはり頑なに酒を排除するエーステ…。果たして冬組は素面で腹を割ることが現時点で出来るのだろうか…?と少し思った。

 

誰から話そうかということになり、まず、旗揚げの時は紬と丞がなんであんなに関係が拗れていたのか聞きたいね、と誉が挙手で礼儀正しく質問。紬と丞が、お互いの心境を素直に話し始める。順番に、今まで話していなかったことをスムーズに話せるようになっていく冬組。

 

♪ボクらの距離

この時誉が何を話したのかとても気になるが、恐らくは恋人に言われた壊れたサイボーグに関するエピソードだろう。原作では、旗揚げ公演の際に開かれた飲み会で恋バナをすることになった時、頑なに『恋愛に関して話すことなどない。好きなタイプもない。』と拒んでいた。

舞台では、秋冬公演でも元恋人の存在は丸ごとカットされているため、せめて曲中で話したことになっていてほしいという願望がほとんどだが…。

 

冬組「♪近づくことで傷つくこともある  でも近づいたからこそわかりあえる」

これは、まさにこの冬組単独公演の大きなテーマを表しているフレーズだと思う。

東「春組は家族、夏組は友達、秋組は仲間って感じだよね。ボクたちは、なんだろう……」

ここで、今後の冬組を象徴するワードが誉から飛び出す。

誉「運命共同体というのはどうかね!病めるときも健やかなるときも、幸せも苦しみも笑顔も涙も共有し、運命を共にする運命共同体…うむ、素晴らしいではないか!」

 

 

紬「一人で抱えきれなくなったら、その時はお互いに苦しみを分けあって、一緒に背負ってあげる…そんな感じですよね。」

東「そうだね。そんな関係がいいな。」

 

彼らがここにいることは、始めこそただの偶然だったかもしれない。その偶然から生まれた関係性が、彼らの心地良い居場所を作っていく。若干重いようなこの『運命共同体』という言葉も、お互いを想いあえるようになった冬組の独特の距離感を表現していると思う。

冬組「♪これからはこの距離を忘れずに  心地いいボクらの距離にしよう」

他の組よりも、少しだけ歩みが遅かった冬組。第2回公演、そして第3回公演へと時を重ねるうちに、やっと互いの足並みが揃い、輪になれるところまで近づいたのだ。ゆっくりでも、小さくても、その一歩は確実にお互いのぬくもりを感じあえるところまで来ている。冬組のストーリーは地味ではあるが、より人間らしい感情の動きが丁寧に描かれている。旗揚げ公演のストーリーは、その大人ゆえの踏み出せなさから、他の組とは違ってファンタジーで強引に動かした感じがあるので、私は第2回公演以降のストーリーで、より冬組の魅力を感じられるようになっていくのが好きだ。

 

話し込んでいるうちに、起きているのは東と丞だけになった。ふと窓の外を見ると、既に外は白んで、朝日が昇る時間になっていることに気づく。

東「ここから見る朝日がこんなにキレイだったなんて、知らなかったな……」

丞「最上階で見晴らしいいですしね。」

このちょっとずれている返答が、いかにも丞らしいなと思う。朝日が綺麗に見えるのは、場所だけではなく、朝を迎えることが少し怖くなくなったと感じられる東の新しい人生の心象風景でもあるのだと思う。しかし、この綺麗な朝焼けがみられるこの部屋は孤独の象徴。東は、一人ぼっちにならなくても良い場所をやっと見つけたので、ここに帰ってくる必要はもうない。この部屋に来るのは今日が最後だと言いながら東が取り出した鍵には、また別の鍵がついていた。

丞「その、もう一つの鍵は?」

東「実家の鍵だよ。家族が亡くなってから、一度も帰ってない。」

丞「……。」

もう一人ぼっちではない。しかし、東の過去の悲しみは消えてはいない。その記憶と向き合うタイミングで、この鍵が必要になる時が来るのだが、それはまた別のお話。

東「いつか、ここに行く勇気が持てたら、その時は……一緒に行ってくれる?なんて…!」

ふと振り返ると、丞も限界が来ていたのか、いつの間にかスヤスヤと眠ってしまっていた。

東「寝ちゃったか。…ふふ、いいところで寝ちゃうんだから。」

 

東『…おやすみ、良い夢を。』

 

▼初日開演前、幕の前の4人

ストリートアクトを終え、芝居について話し合う3人。

綴「雄三さんに言われたんすよ、芝居なめてんじゃねぇ!って。」

臣「きっと、わかったところがスタートラインなんだよ。」

綴「スタートラインか……じゃあ、まだまだ走り続けないとっすね!」

そこへシトロンが泣きながらやってくる。どうやら、GOD座の晴翔に出会ってしまったらしい。

シ「山田(晴翔)にインゲン投げられたヨ〜!」

綴「なんて言われたんすか?」

シ「『アンタ、日本語変だよ?』」

綴「そりゃそうでしょ!」

一「大丈夫だって!俺がバイブスアゲめで、やばみな日本語、教えちゃうからさ☆」

シ「カズ…!」

綴「三好さんが教えたら余計ややこしくなるから…」

一「その前に、冬組のアゲみな芝居、観に行っちゃおうよ〜!」

シ「アゲ美…?女の子ネ〜!」

ここで、しっかりと雄三さんの存在を舞台の上に残してくれる脚本。エーステとして、雄三さんの扱いを今後どうするのかは、私にはわからないし、どうするのが一番しっくり来るのかも考えられない。だけど彼も、ちゃんと天鵞絨町に生きているということだけは確かだ。

 

いよいよ、冬組第3回公演の幕が上がる。

 

▼劇中劇:真夜中の住人
やや暗めのステージの上手側で、夜の世界に生きる吸血鬼が人間を襲うシーンが繰り広げられる。追っ手が迫り、攻撃を受けながらも命辛々逃げる、吸血鬼の玲央(東)。
下手側では、サラリーマンである浩太(丞)と野々宮(誉)が仕事をしている。その帰り道、今にも倒れそうな男に浩太が走り寄る。

浩『お、おい!』

玲『助けて…』

時計の鐘が鳴り、『真夜中の住人』とタイトルが月の映像をバックに映し出される。

朝起きると、昨日助けた玲央が朝食を作ってくれていた。

浩『うまっ!俺は瀬尾浩太。あんたは?』(この台詞のスピード感が毎回じわじわきていた)

玲『…玲央。九頭玲央だよ。』

浩『玲央、行く場所がないなら、しばらく俺の部屋にいてもらってもいいけど?』

玲『こんな得体の知れない男を家に置くの?』浩太は普通の青年だが、少しお人好しが過ぎるくらいの優しさを持ち、玲央は一線を引きながらもそれに甘えることとなる。

東(さすがだね。いつもとは違う頼りなさがよく出てる。)

丞(強く見せている俺の方が、演じているのかもしれないですけどね。)

丞がそんな風に思っていたなんて…!事実、ステの丞は冒頭で触れた通り、原作よりとても人間らしさを醸し出しているので、より普通っぽさが強調されている浩太が物凄くハマり役だと感じた。

東の演じる玲央も、普段の掴み所の無さとは別に、少し冷たい雰囲気をきちんと表現していてとても良い。

浩太を会社に送り出し、家に残る玲央。それぞれの心中が描かれる。

浩『追い出すかよ。…助けてって、言ってただろ』

原作では、浩太のお人好しの理由が「自分も田舎から出てきた時は大変だったから」というもので、ちょっと抜けてる人なんだな〜という印象だったのが、この台詞で少しゾッとした。何か、人を助けるとか、役に立つことに関して執着のようなものを感じる。一方で、吸血鬼ということを明かさずに世話になることに対して少し罪悪感を覚える玲央。こうして人間の家を転々としながら生活していたのだろう、どちらかというと申し訳なさよりも哀れんでいるような印象を受ける。

玲『ごめんね…』と玲央が浩太に聴こえないようにつぶやく。

ここで、紬演じる泉が登場。隣に引っ越して来たのだという。物腰の柔らかい好青年風だが、どこか謎めいた雰囲気の男だ。

会社で同僚の野々宮が浩太の状況に触れる。

野『聞いたぞ〜?行き倒れの男を拾ったって?怪し過ぎるだろ。アラサー向けのドラマか漫画じゃねんだから…』

浩『ほっとけ。』

野『ハァ…んなこと言ってっと、いつか痛い目見っぞ。』

この野々宮の台詞を聞いた瞬間、誉…すご!!となった。正確には田中くん演じる誉なので田中くんの演技とも言えるのだが(ややこしい)、彼の解釈でここまで役者:有栖川誉としての演技の幅が広がっていくのは見ていて本当に面白い。あんなに普通の演技が難しかった誉が、ただのサラリーマンを自然な演技でやっている…いやこんな頭身の高いこんな派手な髪型のサラリーマンはいないが…。

この気のいいにーちゃん風の話し方は、どちらかというと田中くんのパーソナリティに寄っているせいか、よりリアルで野々宮の人間像がとても掴みやすかったし、誉がこういう普段の様子からかけ離れた役やってるの、もっと見たい…!となった。

野々宮は社内でわかりやすく人気がありそうだけど、浩太は陰でこっそり母性本能をくすぐられてる人がいそうだなと思った。

誉(どうかねどうかね?!ワタシのサラリーマン役は!)

丞(正直驚いた。こういう役もさらっとこなせるようになったんだな)

しかし役以外はいつもの誉なところがまた愛おしい。

誉(好きなようにやりたまえ。我々が支えるよ。)

第2回公演での主演を終え、頼もしくなった誉に丞もまんざらでもない表情を見せていた。

玲『♪ごめんねと言うのもずるいかもしれないな 僕は君の命を食らってる だけどどうしてだろう 君の血が欲しいのに 君の血が欲しくないんだ』

原作ではきちんと名言されていなかったが、玲央は毎晩浩太が寝た後、その血を飲んでいる。リアルな舞台で見るとなんだか生々しくちょっと耽美な場面に見えてそわそわした。

血を飲まれている影響か、最近悪夢を見るようになったという浩太。

夜中にうるさくなかったか聞かれて、『人の心配より自分の…』と言いかける玲央。単なる餌である人間の浩太に対して玲央の気持ちが変化していっているようだ。

一緒に過ごすうちに、浩太の部屋には玲央用のマグカップなどの小物が増えていく。台詞がないシーンでも、小道具や話している表情から、二人がより親密な関係になっていっていることがわかる。

いつものように朝出かけると、また泉と鉢合わせる。泉は、浩太の部屋から昼間も物音がするので、平日も休みなのか?と問う。

浩『ああ、ちょっと友達が泊まってるんです。』

泉『そうですか、お友達が…。』

この泉の表情が怖すぎる!まだ本性を隠してはいるが確実に何か不穏なものを秘めていることがわかる。第2回公演の『主ミス』から引き続き、紬の繊細な演技が光る…。繊細な演技をするキャラをきちんと表現できる荒牧くんの技量のおかげだろう、秋冬公演から紬の演技だなという説得力があるので、安心して観ていられる。

紬(みんなすごい、どんな細かい演技も受けて返してくれるし、芝居が多彩で面白い!)

丞(一番やってるやつがよく言うよ。)

紬(俺たちは、冬組に出逢うために芝居をしてきたんだね。)

丞(…だな。)

こんな風に2人が、特に丞が思っているなんて…!丞は、GOD座のトップに立ってなお、方針についていけないという理由だけで、その座をあっさりと捨てられるほど、ただ芝居がしたいという想いだけで舞台に立っている人間なのだろう。その丞が、本当に居心地のいい場所としてMANKAIカンパニーの冬組を選んでくれたとしたら、それはとても大きな意味があることだと思う。

玲央がやってきて一週間経ち、浩太の顔色の変化を心配し野々宮が声をかける。ただの寝不足だと浩太は言うが、野々宮は居候がやって来たタイミングを訝しむ。

野『ここ1週間ずっとだぞ?一週間って、居候が来てからだろ。やっぱそいつおかしいよ!』

浩『玲央のせいじゃないって。』

野『いいやおかしい。1回会わせろ。』

浩太と野々宮がどれだけの仲なのかは明言されていないが、友達にしても野々宮はとても世話焼きだし、そこまで「一回合わせろ」とまで心配される浩太は、やっぱりどこか放っておけないところがあると思われているんだな…と感じる。

一方、上手側では見慣れない怪しい人影が玲央と話している。
?『いい寝床を見つけたみたいだねぇ。』

玲『用がそれだけなら帰れフランツ!』

密演じる吸血鬼のフランツ。原作とは違い、どうやら玲央とは元から顔見知りのようだ。浩太の近くでは柔らかい表情を見せていた玲央だが、突っぱねるような態度を取っている。やっぱりステ東の演技は、儚さだけでなくきちんと男性の持つ強さを見せてくれるので好きだ。

フ『♪お前が何にうつつを抜かしてるのか知らないが ボク達は所詮』

玲『♪わかってる 太陽の光は強すぎる』

浩太に惹かれている様子の玲央に対し、人間と共に生きる事はできないのだと諌めるフランツ。《ボクたちは所詮》という歌詞から、フランツ自体も、吸血鬼という生き方に満足しているわけではないことが伺える。フランツは玲央に、自分達を狙う追手がすぐ側までやってきていることを忠告する。

浩太は2人が話している様子を見て、何のためらいもなく声をかけるが、巻き込みたくない一心か、玲央はそれを無視して去ってしまう。

野『あっ逃げた!さてはあいつら犯罪組織の一員とかじゃ…』

浩『いい加減にしろ野々宮!…だけど、なんで無視したんだよ……。』

あからさまに雰囲気も妖しいので野々宮が訝しむのも無理はない。浩太は誤解を解こうと庇うものの、玲央の態度に少し違和感を覚える。

浩『♪家に居させてるのも ずるいかもしれないな』

2人『♪いるのが当たり前になってる』

2人『♪偶然出会った見知らぬ男なのに ずっと一緒にいたいんだ』

この、《ずるいかもしれない》というフレーズが、浩太の単なる優しさのつもりが身の回りの世話をさせてしまっているという罪悪感からなのか、行く当てのない玲央の置かれた状況をなんとなく察しているからなのか、私にはいまいちピンとくる解釈ができていない。

ただ、察するに、お互いに何らかの強い友情、もしくはそれより少し上の、依存するような感情が生まれ始めているのだと思われる。

また玲央のもとに忠告をしに来るフランツ。あまり血を飲んでいないだろうという指摘に、玲央は自分に言い聞かせるように『大丈夫だよ』と答える。

しかし、自分が生きるためには人間の血が必要であり、このままだと、いつか自分の命が尽きるか、浩太の命を奪ってしまうことになるだろう。やはり共存することは難しいのかもしれないと葛藤する玲央。そして、世話になった浩太の元を離れることを決める。

出発の朝、玄関では泉が待ち構えていた。
浩太は普通に挨拶するが、玲央は『お前…!』と何やら警戒する。
泉『引っ越されるんですね。それじゃあ…これ、僕からの餞別です。』

そう言って紙袋を差し出す泉に対し『浩太、下がって!』と浩太を庇うため前に出る玲央。

その一瞬の隙を突き、泉が差し出した紙袋の後ろから、隠し持っていたレイピアのような剣で玲央を貫く。

泉『残念だなぁ~~少しの間だったけどお隣さんだったわけだし?』

今までの柔らかな雰囲気から豹変し、猟奇的な笑顔を浮かべる泉。この紬の豹変ぷりが、第2回公演の相馬とも通ずるところがある。二回連続の悪役だが、あの演技を観たらやらせたくなるのもわかる。

浩『おいアンタ何してんだ!!』(ごもっともなツッコミすぎてちょっと面白い浩太)

泉『汚らわしい夜の一族よ。我が血盟の掟に則り汝を排除する!』

迫っている追っ手というのは、エクソシストである泉のことだった。浩太はここで玲央が吸血鬼だと知るが、それでも玲央を庇おうとする。二人まとめて送ってやる!と泉は再び刃を向けるが、そこへ俊敏な人影が割り込む。

フ『あーらら、ご相伴に預かろうと思ったのに貧乏くじ引いたな〜。』

フランツが助太刀にやって来る。両手に持ったナイフをクルクルと回しながらダルそうに話す感じが良かった。フランツは気が強く、戦闘が得意なタイプのようだ。

激しい戦闘を繰り広げる2人。恐らく別舞台で鍛えた荒牧くんの剣さばきと、植田さんの小柄で身軽なアクションがとてもよく映える。

紬(すごいね密くん、稽古の時よりも更に動きが洗練されてる!)

密(考えなくても、体が勝手に動く。)

紬(密くんの過去に関係しているのかもしれないね。)

密(東みたいに、いつかオレも向き合いたい。自分の記憶と…)

この心情会話を、アクションしながら尚且つ演じている役とキャラクター自身を切り替えてやっているのがすごかった。一歩間違えば怪我をしそうな動きもあり(後ろから頭を狙って突くのを見ずに避けるなど)、阿吽の呼吸になるまで練習したんだな〜と思いつつ毎回ハラハラしていた。

密は、秋冬公演で熱を出した時に過去を思い出したが、寝て起きるとすっかり忘れてしまっていた。記憶の奥底に眠る本当の姿を、この時はまだ捉えきれてはいないものの、’’役者・御影密’’として生き生きと演技している様子が伝わってきた。

フランツの回し蹴りが決まり、武器を落とし劣勢になる泉。

フ『まだやるぅ〜?』

泉『…ッ!人間は貴様らには屈しない、白き刃が必ず貴様らを裁く!』

泉が捨て台詞を吐いて去っていく。玲央を連れて行こうとするフランツに浩太は警戒するが、『安心しろ。ボクたちは同類なんだ』と言われ、フランツに玲央を託す。

ここの植田さん演じる密のフランツがとても良かった。原作では密自身の持つミステリアスな雰囲気が出ていたが、その感じも残しつつ、好戦的で血の気の多い一面もあるというギャップが良かった。舞台で見る密は、儚げでどこか人間離れした独特の空気が強いので、このくらいの演技のバランスがカッチリとハマっていたのかもしれない。

玲央とフランツが去った後、自分の気持ちを吐露する。

浩『♪ごめんなんてもう言わなくていいんだ  俺の血なんかくれてやる  だから お願いだから 生きてくれずっと  お前を……失いたくないんだ』

舞台の方が、浩太の玲央に対しての入れ込みようがすごいことになっている。原作でも、確かに友情以上の仄かな感情を匂わせる雰囲気の物語ではあったが、自分がそこまで読みとれていないのか、なんでここまで浩太が玲央に執着しているのかが舞台でもいまいち分からなかった。

少し考えてみると、冒頭で浩太は『助けてって言っただろ』と、玲央が誰かに救いを求めていることを感じ取っている。原作では、田舎から一人で出てきた時は自分も色々困ったから、頼っていいぜ!みたいな、少し天然な風味のある心からのお人よしという感じだったが、舞台の浩太は、優しさは本物だが、どこか人を助けるということ自体に迫られているような感じもした。困っている人を心から助けたい、そう思うあまり、その人に感情移入しすぎてしまうような。

吸血鬼は、題材や逸話によって様々な姿を持つが、餌となる人間を惹きつけるために、非常に美しい容姿をしているとされることが多い。玲央も、人間を惹きつける不思議な魅力を持っていて、その上で優しい浩太は一緒に過ごすうちに、段々と離れがたい気持ちになっていったのではないだろうか。

フランツに介抱され、気がついた玲央は真っ先に浩太の心配をする。『僕たちが何をした?ただ人より長く生きられるだけだ!』と、浩太と一緒に生きられない吸血鬼の宿命を呪う。フランツはどこか憐れむような様子で、異端は排除するのが人間というものだと諭す。もしかしたらフランツにも、人間との絆を諦めた過去があるのかもしれない。舞台だと、原作では感じ取ることのできないドラマを、役者の表情や台詞の言い方から思い描くことができるので、劇中劇でもそれぞれのキャラクターに新しい魅力が生まれたりするのが面白いと思う。

吸血鬼は不老不死の設定であることも多いが、玲央たちは「人より長く生きられる」と言っていることから、寿命が何百年とかなのかもしれない。

怪我が良くなり、別れの挨拶をしに来た玲央。結構な勢いで刺されていたが、吸血鬼だから治りも早かったりするのだろうか。

玲央の素性を知りながら、それでもいいから出て行く必要なんてない、ずっとそうして一人で生きていくのか?と引き止める浩太。しかし、玲央はそれを断る。すると、浩太から驚きの言葉が飛び出す。

浩太『だったら、俺も連れて行け。』

玲央『え……』

浩太『道連れになってやるって言ってるんだ!吸血鬼にでもなんでもなってやる!』

東(今まで踏み込まなかった…踏み込めなかった距離……。勇気を出して踏み出したら、今まで以上にみんなと繋がれた気がする…!)

ここで東の独白。状況が状況だけに、最初見た時は玲央が浩太に対して言っているのかと思った。けど、ここはダブルミーニングと捉えてもいいかもしれない。

自分の気持ちを隠し、孤独な心を抱えながら、人のぬくもりを求めて生きてきた東。吸血鬼である玲央が人間に求めていたものも、もしかしたら似ているのではないだろうか。

玲央は首を差し出し待っている浩太に、少しずつ歩み寄る。

玲『ありがとう浩太、その言葉だけで僕は……!』

2人『♪本当は』

ここの最後の台詞と、原作の『真夜中の住人』のテーマ曲である『正体』へ繋がる。本当に素晴らしい流れだった。その言葉だけで、と言いながらも、狂おしいほどの感情に突き動かされそうになる玲央。2人のデュエットから、最後が玲央のソロになる部分が、物語の結末を表しているようで切ない。

曲が終わると同時に、玲央は浩太をそっと抱きしめるが、手刀で浩太を気絶させ、その場を静かに去る。

玲央『おやすみ……良い夢を』

東が苦戦していたこの台詞。その言い方が、本当にあたたかくて、寂しくて、孤独を受け入れるための台詞ではなく、愛しい気持ちを知った台詞になったんだなぁと思った。上田くんの東は、ただの優男でもなく、なよっとしているわけでもなく、とても人間らしいところが滲み出ていて、それが東の演技としても反映されているなと思う。

夜が明け、次の日になり、部屋で倒れている浩太に野々宮が声をかけている。

野『お~~い、生きてっか~瀬尾ちゃ~ん!』

この舞台オリジナルの’’瀬尾ちゃん’’呼びに、思わずドキッとしてしまった。田中君のサラッとした自然な台詞回しが光る。野々宮は会社の女子からも人気が高そう。髪形は誉のままだけど。
起き上がった浩太に、なんだ寝坊かよ、無断欠勤とかするから心配したわ…と呆れる野々宮。わざわざ訪ねてきてくれるなんて優しい…。

浩太は、咄嗟に辺りを探すが、もう玲央の姿はどこにもない。

浩太『置いていかれた……。』

玲央が置いていったコートを握りしめ、地面に伏せて啜り泣く浩太。何のことだかわからずに困惑する野々宮。

玲央は別の場所で何かを想いながらじっと空を見つめ、最後はまた独り、闇の中へ消えていき……終幕。

千秋楽のみ、丞による浩太の『馬鹿やろう…』というアドリブがあった。これは原作で初日に丞が入れたアドリブでもあり、舞台はまた違う印象のエンディングになったなぁと思っていたところにこの台詞が再現されたのが良かった。

真夜中の住人は、原作よりも音楽等の効果で重厚で暗い雰囲気の物語になっていて、二人の関係がより濃密に感じ取れる場面作りになっていた。静かでしっとりしたシーンが多い中、途中にはアクションも挟まり、劇としての緩急があってとても見やすかった。

一幕の主ミスも悪くはなかったが、少し自分のイメージより少し軽快すぎというか、バタバタとただ進んで行ったような印象を受けたので、真夜中の方が舞台化するにあたり歌と芝居のバランスが丁寧に作られていて良かったなと思った。

何より、ステの丞と東は、個人的には原作よりも’’人間らしさ’’が出ている2人だと思っているので、その主演と準主演の持っている雰囲気が芝居と噛み合っていて、2人のことも、真夜中のことも、舞台版を見たことで今までよりずっと好きになれた。

▼終演後

観劇を終えた冬組以外の団員が幕前に出てくる。

シ「紬たち、ちゃんと繋いでくれたネ…」

一「冬が終わったら、次は春だね!」

臣「ああ、みんなでゴールを目指そう」

一「俺たちがいる限り、MANKAIカンパニーは続いていくんだよ!ゴールなんてないっしょ~☆」

シ「繋いでいくヨ、みんなでずっと…」

綴「はい!」

そこへ、小さな花束を持って支配人がやって来る。密宛にプレゼントが届いていたが、差出人は不明だという。

届いていたのは、可愛らしい小さなマリーゴールドのブーケだった。

綴「マリーゴールド…?確か、マリーゴールド花言葉って、なんか怖かった気がするんすよね…なんだったかな?」

なんで綴が花言葉に詳しいんだろう、と思っていたけど、もしかしたら、ステにおける第2回公演の『主ミス』の脚本を書くにあたり、花言葉について調べていたからかもしれないと思うとしっくりきた。(むしろここに繋げるために花言葉推しの改変を…?)

そんな綴の心配も特に気にしていない面々。

一「プレゼントに怖い花なんて送らないっしょ〜!」

支「手紙もついてるみたいですよ!」

一「手紙?もしかして、恋文じゃね?!なんて書いてあるの?!……『お前を見ているぞ、ディセンバー』♡(一成の読み方がこんな感じだった)……エーピーアール?」

密「えーぴーあーる…エイプリル?」

一「ひそひそ、なんで読めるの?」

密「わからない…」

臣「ディセンバーって、12月ですよね。」

綴「冬組みんなに差し入れってことですかね?」

一「箱推し的な?!それあり得る!」

【お前を見ているぞ、ディセンバー Apr.】というメッセージは、実は原作では冬組第一回公演の『天使を憐れむ歌。』の上演後に贈られてきたもので、それを今回のエピソードで回収してきたので初見でめちゃくちゃ驚いてかなり心臓に悪かった。

これは、ストーリーを進めてくると出てくるとある人物から送られてきたもので、密の過去に重大な関わりを持つ人物なのだが、ここでわざわざ出してくる、ということは……?

ちなみに、マリーゴールド花言葉『嫉妬、絶望、悲しみ』

この花を贈った人物が、いずれ舞台でも明かされる日が来るのだろうか。エーステの未来の物語が、もしかしたら、もう動き始めているのかもしれない。

▼エピローグ、海

これは原作の真夜中の住人ストーリーのエピローグでもある部分。

第3回公演が終わり、冒頭で丞と東が話していた「冬組みんなで海に」が実行された。しかし、冬の足音が近づく季節外れの海に、寒い寒いと言い出し車に戻ろうとする密と東。

丞「何しに来たんだお前ら…」

誉「良い詩が浮かんできそうだ……やっぱり寒い!」

寒い、なんとかして、と誉のコートにくるまる密。2人がカンガルーの親子みたいになっていて可愛らしかった。ここの場面では、原作の衣装ではなくオリジナルの冬の装いになっていて、丞がライダース、誉が濃灰色のロングコート、密がモコモコしたフリースなど、それぞれの個性が出ていてとても良かった。

寒いので、とりあえず温かい飲み物を買いに行った3人。

残った東と丞は、以前も海に来たことに触れる。丞は以前のドライブの際、なぜが東が海が好きだと思い込んで連れて行ったらしいが、実はそんな話は一度も出ていない。

丞「海、嫌いでしたか?」

東「ううん。好きだよ。……今、好きになった。」

丞「本当によくわからない人だな…」

原作にもあるこの面倒くさい彼女みたいな東の台詞が好きで、誰かの気持ちを受けとめて自分の好きなものが増えていく、という、人間関係の波紋のようなものがうまく表れているなと思った。

一幕では、誉が「密のことが好きだから世話をしていたんだ」という旨の発言をしていたが、「みんなのことを愛している」とまで言えるストレートな誉とは違い、東は東なりに丞やみんなを大切な存在に思っているということを言葉にしたのだろう。

丞「俺たちは変わりました。ちゃんとチームになれた…時間はかかったけど。」

話しているうちにドタバタと帰ってくる3人を見て、「チームって言っていいのかは、分からないですが。」と苦笑しながら言う丞。

東「運命共同体、ってやつでしょ?誉曰く。」

丞「そうでした。」

ここの丞が少し優しい顔になるのが好きで、冬組……こんなにもあったかいチームになるなんて……と感慨深い気持ちになった。

すると、紬が何やら見たことのある箱を持ってきている。他の団員がストリートACTの際に使っていた、配役決めのためのくじびきBOXだ。ここで、エチュードをやって、一緒に来ている監督(ここまで監督=私達が一緒に来ていることに言及していなかったのでびっくりした)に見てもらおうと言い出す。

5人が中央に集まり、箱の中に手を伸ばす。

紬「それじゃあ監督、俺たちの芝居、見ててくださいね。せーのっ!」

♪エンジェルスノー

みんなが箱から手を出した瞬間、粉雪が舞いあがった。

この演出は本当にハッとするくらい綺麗だったし、ピアノの切なくてあたたかいイントロで胸がいっぱいになった。

冬組のテーマソング、『エンジェルスノー』。旗揚げ公演の『天使を憐れむ歌。』ともかかっていて、良いタイトルだと思う。また、「スノーエンジェル」という言葉には、雪の上で寝転んで手足をバタバタさせるとできる、天使の羽のような模様という意味もある。

《冷たい風が僕をいつの間にか大人にしてた》

それぞれの想いを抱えて、最初はつかず離れずの距離だった5人。どこの組よりも大人で、大人だからこそ、傷つくことを、傷つけてしまうことを恐れていた。

どこの組よりも時間をかけて、第三回公演にしてやっと、近づいてあたためあえるようになった。《ほろ酔いで語り合う 頬が赤く染まる 素敵な帰り道》という一幕を想起させる歌詞があるが、エピローグはカットされてしまったので、結局また冬組は最後までお酒を飲むことはなかった……。

《みんなで描き足していく 心を繋ぐ冬の星座  手を伸ばせば届く距離で 輝いていけるように》

この《星座》という言葉は、エーステにおいて、冬組を表す時のモチーフになっているような言葉だけど、これが的確に関係性を捉えているなぁと私は思う。星にはそれぞれの色や輝きがある。光が弱い星も、強い星もある。ポツンと真っ暗な夜空に浮かぶ様子は寂しいように見えても、その星々を繋ぐと、大きな模様を描くことができる。

冬組の距離は決して近くない。だけどそれはもう、近づき難くて生まれてしまった距離ではないのだ。

また、それを象徴するかのように、『エンジェルスノー』の振り付けは、他の組のテーマソングよりも’’等間隔’’が意識されているように感じた。特に、上記の《星座》を表現するかのような、輪になって回転しながら手をスッスッと動かして、宙に何かを描くような振り付けがたまらなく大好きだった。

これは私の経験に基づく余談なのだが、曲中に《孤独だけが降り積もる 泥だらけの雪だるま》という歌詞がある。私は雪国の生まれなので、雪に関して良い想い出、綺麗だとかロマンチックだとか思ったことがほとんどない。だけど、雪には不思議な特性があって、それは、同じ冬の寒さでも、’’雪が降っている時の方があたたかい’’ということである。科学的には色々な理由があるが、その一つには雪には保温性があるからだという。かまくらの中があたたかいというのがそれだ。

雪だるまも作れないような剥きだしの地面。そこに、優しさという雪が積もって、クッションのように包み込んでくれる。そんなイメージの曲でもあるなと感じた。

その積もった雪の上を、冬組が同じスピードで歩き出す。新しい足跡で、物語を描きながら。

曲が終わり、幕が下りる。

ここからは、エーステお馴染みのサービスナンバーの時間だ。しっとりと終わった物語も、最後は明るく笑顔で、等しく幸せな気持ちになれるのがエーステの好きなところ。

▼サービスナンバー

♪blooming smile~WINTER 2020~(東京公演ver.)

この『ブルスマ』も、各組の単独公演で共通して使われている曲だ。

《冬の夜空にキラキラ光る 星を眺めて暖めあうストーリー》

歌詞の随所に、各組それぞれのアレンジが加えられているので、今回は冬組の歌詞になっている。やはりここでも、《星》が使われている。そして更に《心を開いて ほろ酔いで語り合えるように》という歌詞もある。曲でばっかり強調されているが、いつになったら舞台上で飲酒シーンが見られるんだろう。

また、タイトルが’’東京公演ver.’’となっているが、本来は恐らく’’東京凱旋公演ver.’’として使用されるアレンジだったのだろう。なぜかというと、曲中に初めて各組のテーマソングから歌詞を引用したパートが作られていたからだ。秋組パートの《わがままバイブレーション》という歌詞を臣くんが歌うのがなんだかちょっと面白かった。

冬組パートが引用ではなく、《今日が特別な日に変わるように歌うよ》という、新規の歌詞になっていたのが印象的だった。さっき歌ったばかりというのもあるだろうが、今まで無かった物が出てくる=次に進むというイメージも感じた。

いよいよ、最後の季節までやってきたのだなぁという感慨もひとしおだった。

曲の途中、支配人が手持ちのカメラを持って歩きながら舞台上を映し、その映像が配信で流れるという演出があった(劇場では、スクリーンに映し出されている)。

私は映像配信とライビュでしか見ることができなかったが、カメラに向かって手を振ったりリアクションしたりするキャストを見ていると、’’今’’の瞬間を切り取ったものを見ている気持ちになれて、ものすごく興奮と切なさが同時に襲ってくるような感覚になった。配信用の綺麗な映像とはまた違う、人間の目を通しているような雰囲気は、’’この瞬間がいつまでも続けばいいのに’’と思ってしまう力があり、正に本物の舞台を観ている時と似たような気持ちになって、とてもいい演出だと思った。

《もしも帰りに寂しくなったら》のパートで、みんなが座って横揺れするシーンがたまらなく愛おしくて、ふわふわとした多幸感で溢れた。見つめあってニコッと笑う誉と密が映るのも好きだった。

曲が終わると最後に、紬役である荒牧君が「全ての演劇、全てのエンターテイメントに祈りを込めて。『The Show Must Go On!』」とタイトルコール。
初日と千秋楽のみ紡がれたこの言葉、とても短い文章だが、この舞台に懸けてきたキャスト、スタッフ、観客、全ての人たちの願い、そして、今日この日を迎え、最後までやり通すことができたことへの祝福でもあるように感じて、色々な気持ちが込み上げて来て、涙が出てしまった。

♪The Show Must Go On!

この曲は、エーステの初演から使用されているサービスナンバーで、作詞・作曲は、原作にもキャラソンを提供している大石昌良氏によって手掛けられている。とてもハッピーになるメロディで、うまく言えないけど、花火とかパレードとかをみているような気持ちになれる。
ショーは何があっても続けなければならない。このコロナ禍において、この言葉を体現し、このMANKAI STAGE『A3!』という舞台の息を吹き返してくれたスタッフの方々、そしてキャストの皆さんには、本当に尊敬と感謝の念でいっぱいである。

この後、無事に『Four Seasons Live』も開催されて本当に良かった。また、次の季節の物語に出会えることを、心から待っている。

▼挨拶
最後に冬組の5人が出てきて、日替わりで一人がメインの進行となって寸劇を繰り広げるというシステムだった。丞が筋トレ講座を開いた時に、誉さんが「お前30越えたら膝ぐちゃぐちゃになるぞ」って言われていたのがめちゃくちゃ面白かった。誉はその場で詩を作れと言われて生み出していたりして(雰囲気からして恐らく本当の即興)、純粋に頭の回転が速くてすごいなと思った。

また、終演後の後アナで披露した詩が、ものすごく良かった。

「返り咲くフローズン、ここに立つリーズン、幸せ運ぶMANKAIなカンパニー!」

田中くんが有栖川誉で本当に良かったと最後の最後まで思わせてくれた。

 

▽全体の感想

まず、一度は中止となった公演を、再度日程を組み、キャストを集めて開演してくれたこと。それに関しては、ただただ感謝しかない。一番楽しみにしていた公演を、この目で直接観られなかったことはずっと悔しいままかもしれないけど、仕方のなかったことなのかな、とも思う。全体ライブが控えているからといって、時期を急いて完遂しなくてもいいのではないか…とも少し思ったけど、時系列的に冬組だけ宙に浮いたまま、みんなが今までの第二回、三回公演の話をしていたらいたたまれないから…。

そして、キャスト。エーステは本当にキャスティングが上手くて、ビジュアルも演技も、観たかったものをきちんと見せてくれると思っているけど、それを今回の公演でも実感できた。キャラメイクも本当に素晴らしいし、劇中劇でも実際にキャラクターが演じて動くとこういうシルエットになるんだな、この人の衣装はこう動くんだなというのが、イメージ通りか、それ以上のものばかりだった。今でも誉さんの横髪が揺れると、生きてる………となる。冬組と、サポート組と両方が上手いこと噛み合っていて、キャストが欠けたり変わったりしなくて本当に良かったなぁと思った。

ただ、やっぱり、主に一幕で触れたとおり、原作のストーリーと、主演で扱われるキャラクターが好きだからこそ、どうしても納得できない箇所は最後まであった。それを風化させたくなくてこうして感想を書いているのだけど、もっと手放しで良かった!素晴らしかった!と言いたかったな、という気持ちは残っている。多分、気にならない人は本当に気にならない程度の改変だと思うし、自分が気にしすぎなのかもな、とは思っているけど、なかったことにはできないので、悔しい気持ちになった。

今回の改変は、多分、独立した一幕・二幕というより、’’冬組全体の成長物語’’という大筋が通った話にしたかったのかなと思う。そういう見方をすると、アルバムのエピソードを両方に挟んで繋がりを持たせるなど、公演としての見やすさはあったと思う。紬がリーダーとしての立ち振る舞いをよりしっかりとこなしていたのも、距離感の話をピックアップしてそれが二幕のエピローグと噛み合っていたのも、キャラクターエピソードではなく’’エーステ’’として見た時にきちんと成立していて、とても良い公演だったと思う。

ただ、上演されてよかったね、良い公演だったねという気持ちと、もう少し丁寧に掘り下げてほしかったな…というキャラクターのファンとしての気持ちは全く別のところにあるから、こればかりはこうなんだと言うしかない。原作でも誉さんの主演は現在のところこの『主ミス』しかなく、準主演もやっていないため(…)、エーステで今後また組単独公演があっても、掘り下げの機会が今しかなく、せっかく舞台が上演されたのなら、観たかったところを余すことなく見たかったな……と、どうしても思ってしまった。『ブルスマ』にも、《自分を好きになろう》という歌詞があって、それを聴くと、ほんとに一幕もエピローグ欲しかったなぁ……と思う。あと、秋冬公演から見ている感じだと、このまま誉さんがエーステにおける冬組のポップ担当、とりあえず愉快なことをさせておけばいいかみたいな立ち位置にならなきゃいいなとも思う。もう少し田中くんがシリアスなお芝居してるところが見たかった(田中くんができないというわけではなく取扱いの問題)。

ただ、次の季節に繋ぐということも意識して作られていたので、そこは素直に楽しみにしたいと思う。ストーリー的には、次の公演でもまた冬組が大きく関わってこないといけないはずなんだけど、どういう構成になるのか全然読めないので、期待と、不安と入り混じった気持ちで待っている。

色々言ったけど、こういう状況で上演してくれたことで、やってる期間中もなんやかんや言いつつ毎日楽しかったし、終わったらものすごく寂しかった。無事に最後まで公演が続けられて、本当に良かったと思う。
早く全ての舞台が安心してできる、観られる状況になりますように!

 

ありえないくらい長い文章を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。おしまい。