ポルノグラフィティ 12thアルバム『暁』全曲感想

2022年8月3日にリリースされた、約5年ぶりとなるニューアルバム『暁』。全ての作詞を新藤晴一が行い、岡野昭仁はより歌へのアプローチを深め、アレンジャーと共作の曲を作り出すなど、これまでにない試みを取り入れた全く新しい作品となった。「ファンにフォーカスしたアルバムにしたい」「新規の方々が少しでもザワザワしてくれるものを」と言う彼らが届けてくれたのは、紛うことなき傑作だった。

 

 

1.暁
作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁tasuku 編曲:tasukuPORNOGRAFFITTI

ポルノの得意とする、アップテンポでマイナー調のシリアスな曲。これがシングルではなくタイアップすらついていない、アルバムのための曲であることに驚きを隠せない。

タイトルのイメージから、なんとなく暗めのミドルテンポで壮大な感じの曲を想像していたら、全然違った。めちゃくちゃカッコいいポルノだった。こういうタイプの曲を「ポルノっぽい」と自認してくれているのが、ファンとしてはすごく嬉しい。

作曲は、昭仁とtasukuさんの合作という珍しい形態。今回、「トラックを先にアレンジャーに作ってもらって、後からメロディを乗せる」という方式で作った曲が何曲かあって、そのやり方が結構良かったので採用したとのこと。リクエストしたとはいえ、tasukuさんの引き出しにある“マイナー調のカッコいいポルノ”でこれが出てきたのがまた嬉しい。『THE DAY』の進化形って感じがする。

「全体的に明るい雰囲気ではない」と2人が言うとおり、確かに今作は弾けたパーティーチューンやワイワイ盛り上がるような曲は無いかもしれない。ただ、冒頭に置かれたこの『暁』を聴けば、単に「暗いアルバムだな」という評価を下すことには、まずならないだろう。逆境に置かれてこそ鋭く閃光を放つ、カウンターパンチのような曲である。

作詞の面では、晴一が韻を意識して作ったとのことで、確かに大量に散りばめてある。個人的に、韻って、やりすぎると小手先の技術による「加工」っぽさが洒落臭くなって好きじゃなかったりするんだけど、これはそうならないギリギリを攻めているんじゃないかなと思う。「共犯者」と「乱反射」で踏んでるとこが、言葉の雰囲気も加味して好き。

「暁」という言葉の意味を二人が統一してイメージしていなかったのが面白いなと思った。そんなことある?「まぁ、明けていくことに変わりはないんで」という言葉通り、最終的な方向性が同じだからそういうスタンスでいれるんだろうなとも思う。

 

2.カメレオン・レンズ
作詞・作曲:新藤晴一 編曲:篤志PORNOGRAFFITTI

発売当時は「なんだこの曲?!すごすぎる…」ってなって、その後1年くらいずっとなんだこの曲?!って言ってた気がするけど、さすがにもう馴染んだな。こういうEDMというかリズム主体のエレクトロに振り切った曲をポルノも頻繁に作るようになったし、特にこのアルバムにはそういう曲も多いので、通しで聞いたときの空気感が合ってる。でも、改めてこういう曲がシングルにあるのはすごく嬉しいし、楽曲の完成度が高すぎる。

「UNFADED」ツアーでの演出がすごすぎて、あれを超えられるのか…と思うけど、意外とサラッとやるのかなぁ。でもこういう曲がセトリに入っているとものすごくアクセントになるし、期待したいところ。やるよね?ツアーで…。お願いします。

 

3.テーマソング
作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:立崎優介、田中ユウスケ、PORNOGRAFFITTI

アルバムの中にあったら浮くかなぁと思っていたけど意外とそうでもなかった。ただ、アルバム全体のバランスとかをガン無視すると、これが『REUNION』だったらなぁ…もっと最強になったのに…とはどうしても思ってしまう。これは個人の好みの問題…。

昭仁が「続」ツアーで言っていたように、いつかみんなで声を出せるようになった時のための曲というテーマに沿うなら、「暁」ツアーではやらない気がする。同じくだりを繰り返すことになるし。

 

4.悪霊少女
作詞・作曲:新藤晴一 編曲:江口亮PORNOGRAFFITTI Strings Arrangement:江口亮、友野美里

タイトルが出た時点でかなり期待されていた曲だと思うが、個人的にはその期待を全く裏切っていない名曲だと思う。もっと重厚な暗い雰囲気の曲かと思っていたら、アップテンポな暗めのロックチューンで紡がれる恋の歌だった。短いイントロだが、真っ逆さまに落ちていくような不気味さと没入感があり、歌詞は晴一の得意とする物語調の世界観で、また新しい切り口が生まれたなという感じ。

様子がおかしくなっている人に対して「悪霊が憑いている」という見方をするのは、少し昔の話なのかな~という印象もあり。少女に対する父と母のリアクションの違いも面白い。《我らは戦士 戦うの 生涯をかけても》と言う母親が勇ましすぎやしないか?と思ったが、少女のように恋わずらいに対して抗わなければいけなかった時があったのかもしれない。

暗黒の館には決して
足を踏み入れてはならない
出口には錠が落とされて
呪いの儀式で身を焼かれる

これだけ見て、恋の曲だとは誰も思うまい。禁断の恋に落ちて前後不覚になる比喩のようでもあり、もしかしたら本当に相手も吸血鬼や悪魔なのかも…と思わせるようなダークファンタジーっぽさもあり。《生温かい泥のような甘美の夢》なんて歌詞も出てきたりするけど、晴一も何度か言っているように、ともすれば背徳感すら滲む表現を、昭仁の歌声によって過剰に湿った印象にならず、キャッチーに聴けるのは強みだなぁと思う。

キャッチーとは言ったものの、Aメロの背後から忍び寄るような低音は初めて聴いた時にゾクゾクしたし、サビの最後のフレーズをファルセットで伸ばしてきたのは「そう来たか!」と思った。特に2番サビの「逃れられない」は、まるでライブの時のようなロングトーンで驚いた。岡野昭仁は一体どこまで新境地を見せてくれるのだろうか。これ本当に生で聴けたらすごいことだぞ…。

間奏で3拍子になるのも、おとぎ話風のアレンジで更に深く物語の世界へと誘われるような気持ちになるし、歌うようなギターソロもカッコいい。展開も面白くて短くて聴きやすいし、めちゃくちゃ好き。

 

5.Zombies are standing out
作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:tasukuPORNOGRAFFITTI

これツアーでやらない理由ある?無いよね?頼むよ。これも「UNFADED」ツアーのイメージが強いけど、夏フェスでやったりドームでもやったりして、こういうゴリゴリのヘヴィロックがファンにもきちんと求められていることがわかっていると思うので、今回のツアーで外すわけないと信じている。アンフェ初日の『Zombies~』が始まった時の割れるような歓声が本当にすごかった……。あの演出でこれ出されたら、そりゃああなる。それだけのパワーがある曲だと思う。

 

6.ナンバー
作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:トオミヨウ、PORNOGRAFFITTI

曲調は、「続」ツアーで披露された(仮)バージョンとほとんど変わらず、ストリングスとバンド演奏が融合した、ポルノが得意とするタイプのロックナンバー。本人たちも言っているように、UKロックの雰囲気を主体としているとのこと。少し乾いた感じの、洋風?洋楽?的な空気を醸している。

昭仁のベタ~っと引きずるような、ザラついた歌い方はけっこう珍しく、印象的。その影響で、曲からもどこか退廃的な印象を受ける。しかし、湿った感じの表現をしても重くなりすぎず、カラッとして聞こえるのは声質のなせる技である。

詞は、正に新藤晴一の得意とする、「全然わかんないけど、とにかく世界観に引き込まれる」タイプのやつ。『ナンバー』は穏やかな曲調と相まって、どこかメルヘンチックでありつつ、その裏に潜む不安と違和感が見え隠れし、ある種の怖さすら覚える。

個人的な感覚としては……この曲でキーになるのは「数字」と「満ちる・欠ける」ことであり、その「満ち欠け」とは、「月」を指すのではないかと考えている。現実世界では、時間や月日といった「数字」に囚われて生きている人間も、元は日の出や星の動き、月の形に従って、自然の成り行くまま生きていた。主人公は何らかのきっかけで「数字」を失い、しがらみから解放される。それと同時に、今まで築いてきた生活や「君」をも失うことになる。最初は寂しいと思っていたけれど、段々と元の生活を忘れていく。《数えるのではなく満ちる(欠ける)が合図》であり、行雲流水、無為自然、流るるままに生きることしかできなくなっても、どちらにせよ《Life goes on》なのだと締めくくられる。2番には『胡蝶の夢』のエッセンスを感じ取れる部分もあり、夢か現実か曖昧になってしまった人の曲であるような気もしてくる。

長々と書いたが、これが正解とも思わないし、別にすべてを理解できなくても良い。「考えなくとも、感じる」ことができる楽曲が存在するのも、ポルノの魅力の一つである。ツアー最終日の(仮)バージョンで披露された時は、下手したら『メビウス』より怖がられていたんじゃないかという難解さだったけど、それより幾分かマイルドになったイメージがある。もちろん、すべてを理解しているわけでは全く無いが…。

 

7.バトロワ・ゲームズ
作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁、トオミヨウ 編曲:トオミヨウ、PORNOGRAFFITTI

トオミ節全開の曲。『ナンバー』もトオミさんなことを考えると、なんでもできる人なんだなぁと思うけど、ポルノにおいてのトオミ編曲のイメージはこっちかな。とにかく音使いが気持ちよくて自然とノれるけど、どこか緊迫した雰囲気もあるカッコいい曲。

裏テーマとかを感じさせないくらいに、ストレートにFPSゲームに熱中する人の曲だな~という感じなんだけど、この曲の昭仁の歌い方が気持ちよすぎるので、メロディで聴く曲だと思ってる。《常にヘッショを狙われて こっちもヘッショを狙ってる》の文章のモタつき感はもっとどうにかならんかったのかと思うけど、若者言葉的な口語体をイメージしていると落とし込んだ。とにかく、音使いもボーカルも歌詞の乗せ方も全部気持ちいい。サザンの桑田さんとかがやる、日本語をあえて英語に聞こえるようにダラッと歌う感じが新しい。1サビの「まぁーだのーぅわ」の歌い方とか「濃いめのドーパミンに酔って」のファルセットも、「バァァァァァ!!!!トロワ・ゲーィムーズ…」も、こっちのドーパミンが垂れ流しになるわという勢い。

『暁』と同じくアレンジャーにトラックを投げてもらってできた曲とのこと。昭仁はこの作り方を気に入ったっぽいので、今後もどんな楽曲が飛び出してくるのか物凄く楽しみ。OPにPS2の起動音が使われているのはレーベルがSONYだからか。

 

8.メビウス
作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:tasukuPORNOGRAFFITTI

初披露された瞬間から話題作。ツアーで披露された(仮)バージョンから少し歌詞が変更されたが、こちらは曲のアレンジそのものも大きく変わっている。ライブの時の無骨なバンドアレンジが非常にカッコよかったので、初めはなんだこれ?!になったんだけど、ずっと聴いていたら割と好きになった。オシャレかつ浮遊感のあるループミュージックになったが、曲のコンセプトにざっくり言うと「意識朦朧」というイメージがあるというのを読むとかなり納得できた。そう言われると、この前後不覚な、霞がかった、水の中で溺れている時の意識のようなアレンジなのもわかる。昭仁ってこういうワンコードで進むみたいなやつけっこう好きだよね。

で、それに伴って問題の歌詞がひらがなという点で、私はライブ時には「子ども」をイメージしてたんだけど、もう少し年齢が上なのかな?と思うようになった。拙さというよりは前述の「朦朧」の方なんだなと。にしても不気味なことに変わりないが…。なんかあらゆる創作において見つかったらバズりそうだなと思っている。

 

9.You are my Queen
作詞・作曲:新藤晴一 編曲:tasukuPORNOGRAFFITTI

箸休め。と言っても、これはこれで存在感があって意外と嫌いじゃない曲。最初に聴いた時は、なんとなく題材が「晴一版『スパイス』か?」と思ってしまい気乗りしてなかった。『スパイス』があんま好きじゃないので…。まぁでもこちらの書き手は新藤晴一だしな…と思って何回か聴いてると、アレンジも含めて悪くないなと楽しく聴けるようになった。

晴一的には、二人が誰とか関係なく「こういう関係性があったら素敵だよね」というニュアンスの曲らしいが、私はこの曲の登場人物を“親子”だと最初から思っていて。小さな可愛らしい娘に対して「レディ」とか「クイーン」とか気取った呼び方をしておどけているじゃれ合いの曲なのかなと。《君の前にひざまずいて その手の甲にキスするよ》も、相手が小さい女の子だからそういう表現になっているのかなぁとか。《象の背に乗った君を》あたりからは、絵本のような、子どもが見る夢のようなファンタジックな世界観で、カラフルだなぁと思う。クレパスで描いた絵のようなイメージ。

でも、最後のワンフレーズ《永遠にあなたに仕えましょう》が、娘だとすると果たしてそうなるか?とは思うけど、離れても親子の関係は変わらないだろうから、いつまでもワガママを許してしまう父親、みたいなニュアンスなのかな。

ただ、この曲で印象的なのが「レコード針の音」である。イントロと間奏で聞こえてくるこの音がどのような意味なのか、もしかしたらすごく遠い昔を思い出してるみたいなイメージもあるのかなとか。間奏の微妙な“間”が若干不安になるのは私だけだろうか。多分そこまで意味深な演出ではないとは思うけど。

 

10.フラワー
作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:篤志PORNOGRAFFITTI

壮大なバラード。こんな“宇宙”みたいな感じだっけ…?と思って、過去に配信された原曲と聞き比べたけど、デジタルだったのがCD音源になったおかげで音質がクリアになり、なんとなく広がりのある感じに聞こえていただけっぽい。特にミックスとかに変更は無さそう。昔あった『アゲハ蝶』とか『渦』みたいな、アルバム用のリミックスってあんまり無くなったよね。『2012Spark』が最後?たまにはそういう枠も復活したら面白いかも。

テーマもハッキリしてるので、ツアーでの扱いは難しいところだと思うけど、曲の雰囲気も考えると後述の『証言』とかもあるし、今回は入らないんじゃないかな?と思う。どっしりしたスローバラードって何曲もやるもんじゃないし。

 

11.ブレス
作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:tasukuPORNOGRAFFITTI

優しいギターの音色と、それを引き立てる打ち込みのリズム、爽やかで力強く伸びやかなボーカルと、押し付けがましくない、でも突き放すわけでもない、そっと背中を押すだけの絶妙な言葉選びのマッチングなど、ポルノが得意とする方向のメッセージソングらしさが詰まった曲。しまなみロマポルと、ポケモン映画タイアップの思い出がぎゅっと詰まっているので、無条件で泣けてしまう曲。そうでなくても曲自体が本当に良いので、ぜひともツアー固定曲になってほしいところ。『ギフト』的なポジションになってくれそう。セトリの最後に置いてもいいくらいだけど、リリースから期間空いてるしなぁ…という。本人たちがどう思ってるのかはわからないけど。

 

12.クラウド
作詞・作曲:新藤晴一 編曲:宗本康兵、PORNOGRAFFITTI

正直最初に聴いた時は「まぁ、1曲はこういう“スーッ”のやつも入ってきちゃうよね。」と思っていた。が、サビの「燃えるような 夕陽だけが」「が↑↑↑」のファルセットを聴いた瞬間、嘘でしょ?!になり飛び起きた。全体のメロディがすごく綺麗だし、Aメロの投げやりな歌い方から段々ギアを上げてくるのも面白いし、サビは本当に泣いているのか?と思うくらいの切ない声色と、対比した明るいメロディが余計に哀しさを帯びている曲で、これはやられたなぁ……と何回か聴いて心に染みる羽目になった。

晴一って『空が青すぎて』とかもそうだけど、悲しい出来事をメジャー調で書くと余計哀しい、みたいなのが好きなイメージがある。なんというか、《泣きたくなるほどの青さ》を曲にすると、こういうメロディになるのかなぁという感じ。普通、空が青けりゃ嬉しいもんだけど、自分の心はそうではないよ、でもそんなの関係なく、どうしようもなく空は綺麗で、心の置き所がなくて切ないね、みたいな。

アレンジャーが付き合いの長い康兵さんなだけあって、すごく自然な仕上がり。昭仁の特徴である、語尾のフォールを活かすディレクション、ストリングスの入ったバンドサウンド、というポピュラーな「ポルノっぽさ」を汲み取ってくれているので聴きやすい。キラキラしたサウンドに乗ったドラマチックなメロディと切ない歌詞が、このまま何かしらの映画の主題歌になっても良さそうなくらいにマッチしている。

 

13.ジルダ
作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:tasukuPORNOGRAFFITTI

煌びやかでラグジュアリー、ちょうど良く気だるげな甘さを感じる、ポルノ流シティー・ポップといった雰囲気のオシャレな曲。メロディからストーリーや情景が浮かんできやすい、ベルベットの赤!シャンデリアのゴールド!という感じ。こういう、ジャズ、ソウルチックな、揺らした感じの曲はあんまり無いので新鮮さもあるが、これもポルノだな〜と思わせる説得力と魅力がある。

それにしても……この曲に出てくる主人公の男は、まぁ、私に言わせると「人の話を聞かない頭お花畑のいけ好かないキザナンパ野郎」なので、9割がた「何言ってんだコイツ」という気持ちにはなる。本当にただひたすらコイツの頭の中で話が進んでいくので、軽く恐怖すら覚える。ポルノの(主に新藤晴一の)世界にはたまに出てくるタイプの人だが、中でも相当にヤバいと思う(※個人の見解です)。1番終わりでこの曲の意味するところを察して、文字通りジタバタしながら聞いていた。彼氏いる女の子を連れ出そうとすな!友人の牽制をスルーすな!ウインクすな!仕事仲間を脇役とか呼ぶな!急にアインシュタインを持ち出すな!カレンダーの余白を虹色にすな!なんだこいつ。ジルダさんは小粋なオペラジョーク(笑)でコロッと転がされる女性ではないと思いたい。正気を保っててほしい。まず恋人がいるのに別の男について行くという破滅的な倫理観が私には無いので、コイツの行為を、物語の結末をどう捉えるかは、人によると思う。

曲中に出てくる「オーチャード」とは、十中八九、渋谷のオーチャードホールのことであろう。もしかしたら、そこにコイツと誑かされた女の子のストーリーがあるかもしれない。結局「マグリオット」って何なんですか?教えてください新藤先生。あまりに男のことが理解出来なすぎて、気がつけば『ジルダ』のことばかり考えていた時もあったので、夢中にさせられてるのは自分だったってオチなんですか?腹が立ちますね…。

しかしながら、長々と書いた歌詞の共感性の有無を丸ごと差し引いても、岡野昭仁の歌声がとにかく素晴らしすぎて、まるでロマンティックで上品なラブストーリーを見ているような気持ちになるのが不思議だ。散々言ってるけど、昭仁の歌声は、声色による緩急のつけ方、表情の豊かさなど、何を取っても“最強”になっているので、『ジルダ』においても異常なくらいのグルーヴを生んでいる。Aメロのオク上で被せるコーラス、「土曜の夜にオペラへ」のファルセット、「オーチャードでSee you」の音ハメの気持ちよさ。シルクのような肌触りと、古いランプのようなボヤけたあたたかみのあるオレンジ色。曲が、詞が、歌声が全てのシーンを作り出している。最後まで聴けば、まるで映画のワンシーンをそのまま切り取ったような満足感に、いつの間にか虜になっている。そんな曲。

 

14.証言
作詞:新藤晴一 作曲:岡野昭仁 編曲:江口亮PORNOGRAFFITTI Strings Arrangement:江口亮、友野美里

『暁』と合わせて先行配信された曲。

タイトルから、『鉄槌』などの系譜に近いシリアスな楽曲だと予想していた人も多かったが、その正体は、ストレートに愛を歌うロック・バラードだった。バラードと言いつつ、まるで一つの舞台のように目まぐるしく展開していく曲調は、5分15秒という長さを意識させない、疾走感すら感じさせる不思議な構成である。

《悪魔が黒い翼 羽ばたかせ飛び去った》から始まる出だしと共に、主人公の置かれている状況と、悲痛な叫びが伝わってくる。決して明るいとは言えない曲調だが、そのメロディは幻想的で美しく、ヨーロッパの霧深い森を連想させるようなドラマチックな音作りとなっている。

静かに語りかけるような冒頭から、ドラムパターンが徐々に変化することにより、曲のスピード感が生まれている。最初はただ悲しみに暮れ、ゆっくりと歩いている様子が、次第に何かに突き動かされるように、段々と歩みを早め、揺るぎない確信を胸に駆け出していく。靴も履かずに、裸足で、痛みと孤独を抱えながら、それでもただひたむきに、美しさすら感じさせるほどに、長い髪を振り乱して息を切らし続ける……そんな情景が浮かんでくる。

完璧なものなど この世にはないと言うのなら あの愛はそれを

覆した ほんの一瞬 たくさんの星が証言してくれるはず

偽りのない奇跡と

逆説的に、愛の不変性を説くこの「証言」という言葉の使い方に、ただ舌を巻く。そしてあえて文末に置かれた「はず」という言葉選びが、その希望の儚さをイメージさせる。灯火のような小さな光を、哀しみを帯びながらも全てを照らす太陽のような、力強い昭仁の声が高らかに歌い上げることで、この曲は生命の宿る地球のような絶妙なバランスを保つ。

一口に“バラード”と言うにはあまりに力強く、壮大で、揺るぎない。曲の雰囲気の根幹を担う、岡野昭仁によるメロディと歌声。そこに呼び寄せられるかのような、新藤晴一の手法としては珍しい、てらい無く“愛”を表現する言葉たち。ミニマムな世界を切り取ったようでいて、世界の全てを唄っているような錯覚さえ覚えるこの曲は、本当に大げさではなく“音楽である”としか言いようがないと私は思う。

 

15.VS
作詞・作曲:新藤晴一 編曲:近藤隆史、田中ユウスケ、PORNOGRAFFITTI

ノスタルジックな煌めきと突き抜けた晴れやかさが共存する、アップテンポなロックチューン。東京ドームのメモリアルな印象がつきすぎてしまっているかな?と思ったけど、アルバムの並びで聴いても、最後の曲としてぴったり収まる良い曲だった。同じ理由でツアーでの扱いは難しくなるかもとか考えたけど、そういえばCYBERロマポルでもやってたし、サラッと清涼剤みたいなポジションで扱ってくれたら嬉しい。

東京ドームの『プッシュプレイ』リミックスが良すぎて、アウトロを聴くと毎回「アレッ?!」ってなる。スタジオ演奏動画(文章下)でも、CYBERロマポルでもこのアレンジだったので、これこそ”アルバムver.”でリミックスして出しちゃえば良かったのにと思わなくもない。逆に言えば、ツアーでどう化けるのか楽しみでもある。

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「太陽が昇る前のほの暗い頃」、もしくは「夜明け前の空が少し明るくなり始める頃」を指す『暁』。時代によって意味が移り変わったとしても、夜明けに向かうという意味は変わらない。自分たちが置かれた立場による葛藤、音楽との向き合い方。様々なしがらみや、自問自答から解放されたと思われる2人が作り出す音楽は、これまでの楽曲と比べても、1曲1曲が放つ輝きの大きさがまるで違うことがわかる。「聴く人に希望を与えたい」という意味を持つこの『暁』を生み出した、ポルノグラフィティも今まさに「暁」を迎えているのだと、肌で感じることができた。

ファンとして、まず間違いなく最高傑作レベルだと断言することができる一枚だった。このアルバムを引っ下げて回る全国ツアーが、今から楽しみでならない。