【ライブレポ】ポルノグラフィティ 18thライヴサーキット『暁』

2017年の『BUTTERFLY EFFECT』から、約5年の月日を経て発売されたアルバム『暁』を引っ提げたツアー。つまり、純粋なアルバムツアーも約5年ぶりということになる。『BE』ツアーから、ポルノのライブ演出は目に見える形でどんどん進化を遂げており、更にアルバム『暁』の尋常ではない完成度も相まって、私は開催前から否が応でも期待が高まっていた。
…『Visual Album暁』という、ファンの間でも壮大に物議を醸したコンテンツに水を差され、若干の不安もあったが、まぁポルノの二人はその辺の舵取りは上手いと思うので、ツアーに関してはあまり気にしないでおこう、という心持ちで参戦を待っていたが、果たして…というところである。

<参加公演>
2022.10.28 大分市民ホール iichikoグランシアタ
2022.11.16 函館市民会館 大ホール
2022.11.18 札幌文化芸術劇場hitaru
2023.1.24  日本武道館(ファイナル)
以上の公演の内容を織り交ぜて書いていく。主に初見時の大分公演をベースとした感想になるが、私の地元公演である札幌にて、なんと生まれて初めて最前列が当たってしまったため、ところどころ感情にバグが生じてしまっているのはお許しいただきたい。

☆ステージ
今回、会場内に入ってすぐ目に飛び込んできたのが、大きなドアと、吊り下がったシャンデリア、そしてたくさんの窓である。まるで古城の一室かのようなステージセットに、私は大興奮し、ドキドキが止まらなかった。まるで「あの曲」の世界観そのものではないか。ということは逆に、私が想像している「あの曲」はいつやるんだ…?持っていき方は?終わったらどうするんだ?と、ここまできっちり開演前からコンセプトが固まっていることが珍しく、逆に考えることがたくさんあった。
ドアには「18PG」という文字が。シャンデリアにはオレンジ色の光が灯り、窓枠は大小合わせて8つほどあった。

☆開演前~オープニング
今回、今までのツアーと比べて大きく変化したのが「開演前アナウンス」である。これまでは、会場のアナウンス担当者が諸注意を淡々と案内するという普遍的なものだったが、今回はなんと突然、しわがれたおどろおどろしい声の「人間諸君、今宵はポルノグラフィティ18thライブサーキット“暁”へようこそ…」というナレーションが入るのだ。どうやら彼は会場に住まう幽霊のようで、我々人間たちに向けて悪霊から身を守るためのアドバイスをしてくれる……という体で、会場の諸注意をしてくれた。開演前アナウンスに趣向を凝らすというのは『FCUW5』くらいしか経験がないので、既に新しい挑戦が始まっているのだな…!と期待に胸が膨らむ。
最後の開演前アナウンス……もとい、幽霊男爵からの諸注意が終わった後、ステージの床を這うスモークがモクモクと出始め、あたりを怪しげな雰囲気に変えていく。最前列で見た際はスモークがもろに顔にかかり、ちょっと面白かった。
「さぁ……聞こえてくるだろう……ポルノグラフィティがこちらへ向かう足音が……」
客電が落ち、コツ、コツ、という足音のSEが響く。いたずらな幽霊に煽られた客席の興奮が肌に伝わってくる。間を於いて、ステージ下手に設置されたドアからサポートミュージシャンが入ってくる。遅れて、漏れ出るスモークに包まれながら、この館の主たちが手を翳してゆっくりとした歩みで姿を現した。盛大な拍手に迎えられ、真ん中の人影がマイクの前に立ち、まるで儀式を始めるかのように目を閉じて、顔を下げる。狂宴は今宵、彼らに支配される。

M1  悪霊少女
予想を裏切らず、しかし確実な「正解」を叩き出してきたなという選曲。短くも印象的なイントロは、一気に物語の始まりを予感させ、没入感を高める。アルバムの中でも特に好きな曲だったため、序盤にサクッと消化されるには少々勿体なさを感じると共に、今回は1曲目のモニターが定まるのが遅い傾向があったため、どの会場でもしばらくボヤボヤした音でしか聞けないのは残念だった。しかし、昭仁のファルセットのロングトーンは音源以上に圧巻で、頭では「来る…!」とわかっていても、実際に聴くといたく感動した。そのすぐ後に畳みかけるようにギターソロが始まると、一瞬にして虜になるのを感じた。

M2  バトロワ・ゲームズ
フォン、というゲームの起動音(結局PS2そのものでは無かったらしい)が鳴り、オリジナルのゲームロゴのようなものがスクリーンに浮かぶ。窓枠のようなセットは個々に映像を映せるモニターだったことに、ここで気づく。ゆったりとリズムに身を任せて体を揺らす昭仁がとてもよかった。ラスサビの叫ぶような「バァァァ!!!トロワ・ゲーィムーズ…」を繰り返すのがカッコよすぎてこの時点で大興奮する。

M3  カメレオン・レンズ
暗めの曲の3連発。アンフェでは凝った演出で披露されたが、ここではあくまでサラッとシングルの1曲としての役割を果たしたといった印象。間奏の晴一とtasukuさんのツインギターに月のようなイエローのスポットが当たっていたのが良かった。

MCを挟み、次のセクションへ。大分はツアーで回るのが14年ぶりだったらしく、待たせてごめんねと昭仁。「14年前も来たよって人おる?おお~嬉しいね!」「14年前って言ったら、iPhone3の時代らしいよ。LINEも入ってないって。きっとYouTubeも見れんじゃろうて」「初めての人らもようさんおるけぇ今日はわしらも、しんけん!しんけん!!盛り上げるんで!!」と言っていた。真剣?と思ったが「しんけん(すごく)」という大分の方言だったらしい。

函館では、10年ぶりのライブという話になり。「函館言うたらGLAYさんじゃろ」という地元の話や、「それが悪いとかじゃないけど今回のツアーでここ(函館市民会館)が一番小さい会場なんよ。だから距離が近いけぇみんなで大家族みたいな感じでね、楽しんでいけたらと思います」という話があった。

M4  ジョバイロ
最近聴いたよなぁと思ってしまったが、直近で披露されたのが2018年のアンフェなので、4年前を最近と思ってしまうのをやめたい。ジョバイロはラテンの中でも低浮上のイメージがあるが、意外とこういう頻度でやっている気がする。今回の大きな変更点は、昭仁がギターを持たず、晴一がエレキ、tasukuさんがアコギという配置になったことだろう。エレキでジョバイロとは!非常に珍しい変則的な構成。音楽的に専門的なことはあまりわからないものの、ギターが2本あるとこういう時に良さを実感できるので、今後も続けてほしい。ギター弾く昭仁も好きだけど。

M4‘ ネオメロドラマティック
このブロックが、武道館でまさかの大幅セトリ変更。完全に油断していたので、イントロが聴こえた瞬間に挙動不審になってしまった。開始2秒でブチ上がれるネオメロが入ったことでこのセトリの印象も割と変わったのではないだろうか。声出しのできないネオメロはやはり寂しいものがあったが、昭仁が普段と同じように煽ってくれるのでとても楽しかった。「助けて」の歌い方はもう「たーすけてー」で固定なんだろうか。

M5  Stand for one’s wish
“稀”枠でここにツアー初披露の曲が。日替わりで『オニオンスープ』だったらしいが私は日程が被らずに聞けずじまい…。割と好きだから普通に聴きたかった。まぁ、実際ライブで聴いて思ったけど、知らなくてもなんとなくノれる曲にはなっていたので『Stand~』の方が使い勝手は良さそうではある。こういう爽やか系のアップテンポ曲って最近あんま無いから新鮮に感じた。なんていうか、メロディが若い。札幌で、晴一がなんかコーラスをやろうとしてできなかった?のか、終始ニヤニヤしていたのが謎で、一番前で見えてるんだからね!!と思った。やろうと思ったけど音程が取れなかった?

M5‘ プリズム
武道館にて、イントロがアレンジされており一瞬「何?!新曲?!」と思ったのだが、ギターリフが聴こえた瞬間ウオーーーー!!!!と心で叫んでしまった。ここにきて、20周年のメモリアルソング的立ち位置の曲が“稀”枠として披露されるとは。ずっとずっと聴きたかったし、いつやるんだよ~!と思っていたのでめちゃめちゃ嬉しかった。途中、鬼のような変拍子があるので全くノりきれなくて笑ってしまった。「ポイントは“無”になることです」と言っていた、あの難易度の高いギターリフを完璧に仕上げてきていた晴一に感動したが、顔が「やりきった顔」になっていたので微笑ましかった。「ファンのために作った」と各所で言っていたアルバム『暁』のツアーにおいて、≪気づいたら指をさして示してくれたのは君だった≫という歌詞を歌ってくれたことは、なんとも感慨深いものがある。本当にメロディも歌詞も、昭仁特有のドラマチックさが詰め込まれていて大好きな曲。

M6  サボテン
今回、既存シングル枠の予想が全くつかなかったため、意外と言えば意外だったかも。アウトロの昭仁のフェイクも原曲に近く、久しぶりにシンプルなアレンジだったように思う。そしてやっぱり、晴一のコーラスを見ちゃう。最後の方で緑色の丸いライトが重なってサボテンみたいになってたのがなんかウケた。

M6‘  愛が呼ぶほうへ
武道館でサボテンと入れ替わり。「この曲も皆さんに大切にされている曲だと思います」という前フリがあり、ピンときたものの、ここで?という気持ちに。なんとなく、最近の傾向からロマポルのイメージが強かったので、ツアーのセトリに組み込まれるのが新鮮だった。今回わりと既存シングルはどれもシンプルに原曲っぽいアレンジが多かった気がする。凝った作りのアルバム曲とのバランスを考慮していたのか?
ここでMC。大分では、晴一が2日前から現地入りして温泉に行ったよという話で。
晴「大分に来たんじゃけぇ、スタッフとかマネージャーとか、後ろの愉快な仲間たちと温泉行こうやって話になって。せっかくだから浴衣着ましょうよって話になって。唆されたんよ、スタッフに。でも、こういうのって『みんなで着ようね~』とか言って、わしだけ本気にしてたらどうしよう……と思ってロビーに来たら、みんな浴衣で、着てる~って安心して(笑)。浴衣着てぞろぞろ街の中を歩きよったんじゃけど、別府って、温泉街というよりは街の中に銭湯が点々とあって、ほんとに生活の中に温泉があるって感じで。みんな普通に生活しよんの。その中を明らかに観光客って出で立ちで歩くんはちょっと恥ずかしかったね。でも温泉入ったおかげで、体が動く動く~!」

函館では、北海道でライブをやるからってGLAYがわざわざ差し入れくれた話で「わしらもいい先輩にならにゃいけんね〜」って話の流れで。
晴「TERUさんにはコレ(手をバッと広げるやつ)があるけど、ポルノの決めポーズって何?
昭「そんなもんある人の方が少なかろう」
晴「でも氷室さんとかもあるじゃろう」
昭「決めポーズかぁ~……」
晴「函館の人ってGLAYさんは知り合いみたいなもんなんじゃろ?友達の親戚のみたいな…」
昭「ここにいるみんなサイン持っとるんじゃないの?GLAYさんのサイン持っとる人!……意外と少ないな?因島の人なんかわしらのサインみんな持っとるよ、1人3枚ずつくらい」
晴「ダブついとるけぇね」

札幌では「何か面白い話ないんですか?」という昭仁の雑なフリに対して「ん〜あるけど、言えん!笑」という"無"の会話をしていた。……思ったけど、最前だったせいで札幌のMCをほとんど覚えていない。二人がいる………という気持ちに支配されていた。

ここからアルバム曲のセクションに。このセトリの感じがアルバムツアーだなぁ~!と懐かしく感じる。

M7  ナンバー
ここで一つ言及しておかないといけないのが、『Visual Album 暁』についてである。本当に単刀直入に言うと、私は全く好きではなかった。いくらMVとは違う扱いだと言われても、どうしても受け入れられなかったし、見なければよかったと思ったほどの作品だった。ファンの感想も、肯定・否定があんなにもハッキリと分断されたような作品を、使うわけがないと思っていた。
曲が始まった瞬間、モニターを見て驚愕した。そこには確実にVAの映像が映し出されていた。私は特に『ナンバー』の映像がトラウマ級に苦手だったので、もう「どうして…」という気持ちでいっぱいになってしまい、初見の大分公演では気が散ってしょうがなかった。
ただ、曲が進むにつれ、不快な人物のシーンは丸ごとカットされて新しい風景の映像が追加されるなど、知らない人が見たら何のことはない、普段の映像と変わらないような仕上がりになっていることに気づき、幾分かホッとした。ただ、いつあの汚い映像が出てくるんだ…とビクビクしながら曲を聴く羽目になったこと、「これ使うんだ…」という落胆の気持ちになってしまったことは、拭い去れない事実である。
曲に関して言えば、アルバムのクオリティそのままで素晴らしかったとしか言いようがない。昭仁の歌について「CD音源みたい!」と言われると「いやライブはCDよりすごいから!!」と言い続けていたのだが、ここ数年であまりにも歌唱の技量が上がり、逆にCD音源に近づくみたいな現象が起きている気がする(?)。迫力は上乗せで、声の安定感はそのままみたいな。岡野昭仁の進化がいつまでも加速していくのがこわい。

M8  クラウド
こちらも、映像からは人物が削除されていた。特定のイメージがつくことを避けたためだろうか?ただ、この曲調でラーメンどんぶりとか蒸し器とかが映るのは心の中で笑ってしまったが…(撮影地が台湾のため)。
アルバムの中でも、ライブで聴くのをかなり楽しみにしていた曲。なんといっても、あのサビのファルセットがライブでどうなるのかということに着目していたが、さすがは岡野昭仁、見事としか言いようがなかった。数年前まで「ファルセットが苦手で…」と言っていた人間とは思えない(今も言ってるけど)迫力のあるパフォーマンスだった。公演の調子のよさのバロメータにもなっていた曲だとも思う。

※注:↑ここまではツアー後にすぐ書き始めていたけど、どうしても件の映像に触れないわけにはいかず、このまま書き進めていいのだろうか……とモヤモヤした気持ちになって途中で放り投げてしまいました。お蔵入りにするか迷ったけど、せっかくここまで書いたし、何より順番が変わったり歯抜けになることがストレスなタイプなので(?)19thツアーの感想の前に仕上げたいと思い、ここから下はゆるめに、覚えている範囲のことを書いていきます。もう2024年ですが…。

M9  ジルダ
これも映像が本当に邪魔だった……ツアーに連れて行ったうちの一人も「歌詞がところどころにテロップで出てくるから何か意味があるのかと思ったけど無さそうだったしちょっと気が散っちゃった」と言ってて、ですよね……となった。
ただ、やはり音楽と歌は素晴らしく……最終的にほぼ目を閉じて聴いていた。前の方に入ればあんまり見えなかったから前方入った人は気にならなかったと思う。この曲に入る前に、キーボードの皆川さんがアドリブでワンフレーズ弾いて繋いでくれるというシーンがあったのだが、毎回ロマンティックな演出となっていて最高だった。フレーズについての裏話は、ご本人がnoteに書いて下さっている。

note.com

特に札幌で演奏してくれたエビスビールのテーマソングが、曲のモチーフにも合っていて聴いた中では一番好きだった。
札幌公演においては最前でこの曲を聴けたことがかなり財産となった……。以前、アルバムの感想でも私はこの曲の主人公の男が理解できない!と滾々と書いたのだが、ライブでの岡野昭仁の表情がもう………素敵すぎてしまって……ちょっといたずらっぽく笑ったり、気だるげにゆっくり歩きながらチラリと客席に目線をやったりと……こんな表情で歌ってたんだ!!!という発見が多々あり……私の負けかも……と思った。でも負けたのは岡野昭仁にであってジルダの男にではない。断じて(?)

『ジルダ』が終わり、ここで着席してください、というアナウンスがあり、ぞろぞろと座る客。私としてはアコースティックでも別に立っててもいいのだけど、たまにはこういうのもアリかも。
「座って下さいとは言ったけど、ええ感じのとこで立ち始めてもいいですからね(笑)」という謎のMCがあり、2回目からはああ、と納得。元々は座らせる予定ではなく、大阪公演で機材トラブルがあったことから定着したものだったらしい。だからふわっとした流れだったのか?
「『続』の時もしばらくやってない曲をやったりしたけど、今回も見せ方を変えて聴いてもらおうかなと思いまして。この曲は、2009年の東京ドーム以来やってないけれども皆さんからの評価は高い曲で…」というMCから、察した客席が無言で色めき立つのを感じた。

M10 うたかた
『うたかた』は初めて聴くので、アコースティックアレンジでも普通に嬉しかった。ポルノの音楽チームは本当に既存曲のアレンジが上手い。元がエキゾチックな曲でもあるので、割とスタンダードな落とし込みのアレンジに昭仁の歌声が染み渡る。”今”の昭仁の声で聴けるのが何よりも嬉しい。あと、tasukuさんが加わり昭仁がギターを持つことが少なくなったので、それが見れたのも貴重。

M11 瞬く星の下で
序盤はしっとり、途中からバンドサウンドというアレンジ。ああここで立つのか、と自然と立ち始める客席。こういう空気の読みあいというか、曲による協調性が高いのはやはりポルノファンの特徴といったところか。東京ドームでやったのが記憶に新しいが、割と本人たちが気に入ってるイメージがある。別に嫌いではないんだけど意外なチョイス。温度感がちょうどいいのかな?

比較的にゆったりとした時間が続いたのち、「皆さんが生ける屍に~」との御触れ。こちらのリアクションを想定した投げかけに、向こう側が味を占めている感がある。もっと占めてくれていいから問題はない。

M12 Zombies are standing out
予告があっても、イントロで歓声が出せないのがもどかしい。ゾンビもしっかりブチ上げどころになったよなぁ~と嬉しく思う。こういう曲の需要をわかってくれているのが非常に嬉しい。ギターソロのキメで紫色のライトにカッ!と照らされる晴一が良すぎる。あと、「清らかな~」のパートから客席にフワ~とライトが向かっていくにが好きだった。

M13 メビウス
ここでか!!という静と動のギャップ。『続』ツアーの時とはまた違うアルバムアレンジでの披露となったが、こちらもいいなぁと思った。映像はなんか普通の、いつもの感じのやつになっていた。こういうのでいいんだよ……。ゾンビとはまた違う、深く重めの曲で重ねてきたのはなるほどと思った。

ここで昭仁が捌け、何やら更に怪しげな雰囲気に。なんと山口さんがコントラバスを持っている!始まったのは聴いたことのないインスト。シロフォンなども使われていてちょっとしたオーケストラのよう。バンド演奏というよりは何かのミュージカルの劇伴のような印象を受ける。私は毎回、なんとなく暗く深い森の中に迷いこんだような気持ちになっていた。後から明かされたことだが編曲はtasukuさんらしく、なんでもできる人なんだなぁ……と感心した。近年入ることの多いこういうインタールード的な試みは面白いので、いくらでもやってほしい。

M14 証言
ここからの繋ぎは、いわゆる「ヘソ」に当たるものだと思っていたので、半分くらい予想通り。半分、というのは『証言』は本編ラストに来てもおかしくはないと思っていたため。私は、個人的な感覚で言えば、最初からドラムが走っているイントロに少し違和感を感じてしまった。原曲の、静かな始まりが好きだったので…。ただ、パフォーマンスとしてはやはり圧巻。映像もVAから挿し変わっている!!嬉しい。曲を聴いた時にイメージしていたような、ヨーロッパの森らしきものが燃えている映像になっていた。『証言』という曲は使いどころが難しそうではあるが、またぜひライブでやってほしい。ドームのトワトワみたいな使い方もできるのではないだろうか……。

M15 アゲハ蝶
声の出せないアゲハ蝶もやはりもどかしさを感じるが、昭仁が一生懸命クラップを煽ってくれる。しかし、大分の公演では面白いことが起きた。既に始まっている曲を止めてまで、昭仁が一言。
昭「あのねぇ……速いよ!!(笑)」
そう、手拍子が異様に速かったのだ。確かにアゲハ蝶のラテンリズムの手拍子は、初めての人には難しく感じるかもしれないが、十数年ライブに通っている私ですら初めて体験するくらい、お客さんの手拍子が演奏より走っていた。後から一緒に来てくれた人に聴いたところ「県民性が出たのかもしれん…」と言っていた。真偽のほどは不明だが、かなり面白かった。

M16 ミュージック・アワー
最初、何の曲だろう?という長めのカッコいいイントロから始まり、なんとファンクアレンジでの演奏に!「あか!つき!」という昭仁のアドリブパートもめちゃくちゃいい。ポルノチームは既存曲のアレンジが本当に巧い。何回も聴いている曲でも、新鮮味を感じさせてくれる見せ方をしてくれるのはやはりライブの醍醐味でもある。こういうシングル曲の畳みかけが来るとライブも後半だなぁ~と思う。

M17 VS
『VS』は東京ドームでの感動的な思い出がぎゅっと詰まっていたので、ツアーでどう料理するんだろうと思っていたけど、いい意味で通常通りだった。むしろ、「金色の紙吹雪の中で花道を走ってくる二人を号泣しながら見てる」という朦朧とした記憶じゃない、ニュートラルな思い出ができたのは嬉しいかもしれない。(笑)

M18 テーマソング
アルバム曲だけど『続』でもやったし、曲のコンセプト的に声出しできない状況で2度はやらないだろう……と思っていたからセトリ入りしたのが意外。ていうか『ブレス』は?!いや声が出せないという点では同じだけどさすがに今回こそやると思ってた……。

比較的明るめのラッシュが続いたところで、雰囲気が変わり最後の曲へ。
昭「アルバムのタイトルにもなっている『暁』。暁は、夜明け前のまだ暗い時間という意味があります。暗闇の中に、微かに見える光、そしてその光の先には、もっと大きな光が待っている。そう信じて、最後の曲を聴いてもらいます。」

M19 暁

あゝ 大地に膝ついたままで天を仰ぎ

弱き者よ どれほど待っている? 暁

正直に言って、ここまであれこれ書いてきたが、全てはこの『暁』でチャラになると言っても過言ではないレベルのパフォーマンスだった。サビ始まりのこの曲で、文字の通り“大地に膝をつく”岡野昭仁を見た瞬間、「あ、私はこの人と一緒に死ぬんだ」と誇張抜きに本気で思った。それくらい、心臓を鷲掴みにされた。圧倒的フロントマンとして輝く存在である昭仁が、ガン!!とすごい勢いで崩れ落ちる姿はまるで助けを乞う様でも、祈りを捧げているようでもあり。岡野昭仁には、その場の空気を一気に支配できる力がある。その瞬間を幾度となく目にしてきた私でも、この膝をつくパフォーマンスはトップレベルで好きかもしれない。ちなみに、あまりにすごい勢いで膝をつくので途中からカーペットが導入されたらしい。
最前席でこの膝つきパフォーマンスを見たときは、初見でないにも関わらず、もう身動き一つできずにただ茫然と立ち尽くしてしまった。涙もボロボロ流れて、本当にただぼうっと心臓を握られながら立っていた。後ろの方で見ていた人に話を聞くと、最前付近だけ本当に微動だにしていなくて面白かったらしい。でもあんなもの浴びたらみんなそうなると思う。
『暁』という曲の魅力はアルバムを聴いた時点で相当なものだと感じていたが、それに負けない演出もしっかりと施されていて、バックにある窓枠のようなライトが組み合わさって漢字の「暁」となったり、《乱反射をして視界を奪う》で真っ白なライトが縦横無尽に動き回ったり、近年の演出チームの洗練されたテクニックがこれでもかと光っていた。(《視界を奪う》で昭仁が手で目を隠したのも本当に本当に好きだった)

曲が終わり、メンバーが帰っていく。始まりと同じドアの向こうに帰っていく姿は、あちらとこちらを隔てる異世界へ消えていくようにも見えた。程なくして、お決まりの「ポルノ」コール……はできないので、今回もボイスストラップの音が各所で上がる。私は結局購入していないので手を叩いていた。

アンコールの声もとい音に応えて、またメンバーが出てきてくれる。
昭「アンコールありがとう!!いっぱいそのボイスストラップ?も鳴らしてくれてありがとう!!」
晴「このさぁ、ボイスストラップが進化して音がでかくなったじゃろ。それで映画館で使えないってどういうこと?(笑)」
そう、今回発売されたボイスストラップは前回よりもパワーアップして音がかなり大きくなっていた。その結果、ファイナルの武道館公演でのライブビューイングが上映される映画館での使用が禁止されたのだという。そんなことある?
晴「なんでじゃろうね?映画館の音の方が大きそうなもんだけどね」
昭「花道~!流川く~ん!に混ざってアキヒト~!ハルイチ~!とか聴こえてくるかもってこと?」(※この頃『THE FIRST SLAM DUNK』が大ヒットしていた)
晴「誰?!になるかもね(笑)」
なんていう話もありつつ、武道館では晴一プロデュースの舞台『ヴァグラント』の話にもなったり、それぞれの活動の話にも花が咲き。

EN1 Century Lovers
ロマポル以外の通常ツアーでは久しぶりのセンラバ。いつやっても飽きるということが無く、順当にアンコールだなぁと思える盛り上がりが感じられる曲。ツアーが始まる前に「ストラップにフーフーという声を入れてね」みたいなアナウンスがあり、あ~やるんだ~と思った。「Everybody(ボイスストラップを)押したり手をあげたり!!」という昭仁の煽りもせかせかしていてなんか面白かった。

EN2 OLD VILLEGER(新曲)※武道館公演のみまさかここで新曲発表があるとは思っていなかったので、すごく嬉しかった。『続』の時も言っていたけど、これからのポルノの在り方を示す一番の方法として「新曲を聴いてもらうこと」を考えてくれる2人が大好き。最近あんまり無かったタイプのゴリッとしたロックナンバーだった。歌詞のテロップが出ていたのでチラチラ見ていたのだけど、全体的に皮肉っぽい感じで、「予定調和」とか「お涙頂戴」みたいなパンチのあるワードが並んでいたのが印象に残った。《明日を変えたいならまず自分が変われ》みたいなのが出て、あっそういう感じ?と思ったら《そういうパターンでしょ?》と直後に来て、し、新藤晴一だ~~~~~!!!!!と思ったのを覚えている。

ラスト1曲となり、いつも通りサポートミュージシャンからメンバー紹介。ここで気になったことが一つある。前回の『続』ツアーで昭仁がポルノグラフィティここで、メンバー紹介をしたいと思います!……今思うと、この“ポルノグラフィティここで”って変だよね?だってポルノグラフィティって2人じゃん。」という突然の疑問を抱いていた回があり、この『暁』ツアーからちゃんと「ポルノグラフィティここで」と言わなくなっていたのだ。そこ律儀に変えるんだと思って、気づいた時に妙に面白かった。
最後の2人のMCで、晴一が大分で話していた内容が特に印象に残っているので残しておく。
晴「俺がなんでエンタメが好きなのかというと…こうして今、自分もそういう仕事をしてるけど、元は自分がそういうエンタメが好きだったからで。なんで好きなのかというと、小説だったり音楽だったり……まぁスポーツも言ってみればエンタメじゃけど、それは自分の人生ではない物語に心を委ねられるからだと思うんよ。スポーツ選手だってその人が頑張ってる物語に勇気をもらったり熱くなったりする、そういう他人の人生に委ねることで心の癒される部分、悲しみなのか憂いなのかわからいけど、とにかくそういう心の……(指で四角を書きながら考える)深い部分は自分じゃ入っていけない、触っちゃいけんところなのよ。わかる?それを少しでも、曲に委ねられるような、僕たちの音楽にもそういう役割が少しでもあればいいなと思いながら……やってます!」
私は晴一のエンタメに対するこういう姿勢が好きなので、いつもより踏み込んだ話が聞けてよかったなと思う。
また、昭仁からは今回のアルバムについての話が。
昭「昔は、アルバムや新曲を作ると、世の中とか、音楽業界という大きな世界に投げ込んで、どれだけ波を立てられるのかみたいなことを考えていたけど、今回の『暁』を作る時にはハッキリどこを向いたらいいか正解がわかったんよ。まずファンのみんなのことを考える、みんなの方を向けばいいものができるんだってこと。みんなに向けて曲を書くことで、『ポルノこんな曲あるよ』とか『こんなの出したよ』って、一生懸命に布教活動とか宣伝してくれるじゃろう?みんなが波を立ててくれるからいいものを作ろうと思える、それが本当にありがたいし、そういう関係が心地いいんよ。」
この話は、アルバムがリリースされた時から違うニュアンスで何度も出てきた話ではあるが、実際こうして本人達の口から「みんなのことを考えたらいいものができた」と言われるのは、改めてファン冥利に尽きる。なんといってもその答えが、あのアルバム『暁』なのだから、こんなに幸せなことはないだろう。2017年の『BE』ツアーでは晴一が「たくさん曲を作って、この1曲が何になるんだろうって思う時もあるけど、広い世界に投げ込んだ小さな波紋がバタフライエフェクトを起こしていけばいいなと思ってる」みたいなことを言っていたのを思い出して、こんなにハッキリとファンのことを想ってくれている、信頼してくれているという事実に嬉しくなる。やはり20周年の東京ドームから、私たちとポルノの関係性はグッと縮まったんだなというのを肌で感じられるようになった。

EN3 ジレンマ
やはりラストのジレンマは安心する。あまりちゃんとは覚えていないのだけど、サポメンのソロ回しの時にメンバーカラーみたいなのがついているのは気のせいだろうか?確かオンラインライブの『REUNION』あたりからなんとなくそう思った記憶があるのだが、今度気が向いたら確認してみたい。
最後の最後にかけられる、 昭仁の「自信持っていけ!胸張っていけ!!」というお決まりの言葉。私は札幌の最前席で、何度も貰ってきたその言葉が、改めて光り輝く宝物になった。一般的に誇れるステータスもない、努力も足りない怠けがちな自分にとって、この昭仁の言葉が眩しすぎて、そんなことを言ってもらえるに値する人間じゃないような気持ちが、年齢を重ねるうちに大きくなってきて。でも、初めて一番近い場所でこの言葉をもらって、やっと、「ああ、この人がそんな風に言ってくれるなら、自分も自信持っていいのかもな」と突然ハッキリ感じることができて。
最前席というのはただ近いだけじゃない、何もかもが違って見える場所だった。髪も、指も、爪も、体の厚みも、腕の血管も、喉の動きも、歌いながらのけぞった時の奥歯も、頭皮にかいた汗も、靴の高さも、靴下も、目をこする仕草も、目尻の皺も、ギターの金具で擦れたTシャツの生地も。
ライトを浴びた晴一の少し茶色い瞳の色が今までで一番綺麗に見えて、少し細くなったけどぱっちり二重の昭仁の黒い瞳は今までで一番優しくて輝いていた。瞳の表面って水分で濡れてるんだなぁ〜って記憶までもらっちゃって、いいんですか!?と思った。
一番びっくりしたのが、最後に2人が残ってお辞儀をしたときに、つむじが見えたことだった。人体の構造上当たり前なんだけど、「つむじがある!!!!!」と感動した。
そう、あの場所は2人が質量のある”人間”に見える場所だった。ステージと客席という境界線がありながらも、2人の全てが見える場所。だからこそ、”人間”を感じた昭仁の「自信持っていけ、胸張っていけ」がより実感として心に刻まれたのかもしれない。
少し気持ち悪いことをいっぱい書いてしまったが、初めて座った最前席とはそういう体験だったのだ。これだけでも、私にとって大きな価値のあるツアーだったといえる。

今回のツアー全体の評価ついて、本当に端的に言ってしまうと、「楽しかったけど、あのアルバムの期待値からするともう少しやりようはあったのではないか、しかし『暁(曲)』のパフォーマンスは最高!」という感想になる。
まずVAが本当にノイズだった。申し訳ないけどまずこれが第一にあったので、映像が出てきた時点で結構本気でへこんだ。VAを見ていない人は全く気にならかなったかなとは思う。あと、コンセプチュアルなセットやアナウンスは面白い試みだったけど、『悪霊少女』以外で活きていたかというと…?もう少し色々活用してみてほしかった。でもあの扉の演出はかなり好き。背景の動いて組み合わさるライトもよかった。
私は『BE』ツアーでのポルノのライブの進化に本当に感動して、あのツアーからファンとして生まれ直したくらいの気持ちでいるのだが、そこから続くしまなみRP、『UNFADED』ツアー、東京ドーム、『続』ツアーと比べると、どうしてもあと一歩何か欲しかった……という気持ちになってしまった。ファンとして、毎回あらゆる趣向を凝らしてくれているポルノチームにどんどん期待値が上がり続けていたのもある。さすがに期待外れとまではいかないが、割とスタンダードだなぁという印象を受けた。もちろん、初めて来てくれた人や熱心なファンではないけど普通に楽しんでくれた人の気持ちを否定するわけではないので、そこは勘違いしてほしくない。『BE』以来の久しぶりのアルバムツアー、しかもあの最高傑作『暁』を引っ提げたツアーなんて、どうなっちゃうんだろう!?と思いすぎていたのかもしれない。まぁこれでアルバムの価値やポルノへの信頼が下がるわけではないし、アルバム曲もほぼ全部聴けたのも嬉しかったし、何よりあの『暁(曲)』の演出を見られたこと、そして個人的に最前席に入ったことで楽しかったしいいや!と思うし、結局ますますポルノグラフィティのことが好きになったツアーだった。
あと、超個人的に一つだけ。あのセットとコンセプトなら『蝙蝠』やってほしかった……!!次いつやってくれるんですか。待ってます。

色々あって表に出すのを迷っていたけど、結果的に全部書いてよかったなあと思えている。これを書いている今はもう19thツアーも終わってしまっているので、そちらは早めに書ければと思う。


【セットリスト】
M1  悪霊少女
M2  カメレオン・レンズ
M3  バトロワ・ゲームズ
M4  ジョバイロ
(M4‘ ネオメロドラマティック ※武道館のみ)
M5  Stand for one’s wish
(M5‘ オニオンスープ)
(M5‘ プリズム ※武道館のみ)
M6  サボテン
(M6‘ 愛が呼ぶほうへ ※武道館のみ)
M7  ナンバー
M8  クラウド
M9  ジルダ
M10 うたかた
M11 瞬く星の下で
M12 Zombies are standing out
M13 メビウス
M14 証言
M15 アゲハ蝶
M16 ミュージック・アワー
M17 VS
M18 テーマソング
M19 暁
EN1 Century Lovers
(EN 新曲『OLD VILLAGER』 ※武道館のみ)
EN2 ジレンマ

※クリスマス付近の公演のみアンコールに追加で『Hard Days,Holy Night』